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「卵子が1つの精子とのみ受精する」仕組みの一端をモデル生物で解明-群大ほか

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2024年02月02日 AM09:30

早い段階で「多精拒否」する仕組みは不明

群馬大学は1月29日、)がただ1つの精子とのみ受精する仕組みの一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大生体調節研究所細胞構造分野の佐藤健教授、川崎一郎研究員、杉浦健太研究員、生体膜機能分野の佐藤美由紀教授、佐々木妙子助教らの研究グループと、東京医科歯科大学難治疾患研究所の松田憲之教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトのように性を持つ生物(有性生物)の多くは、卵子がただ1つの精子とのみ受精することによって誕生する。この際、周囲に多数の精子が存在していても1つの精子とのみ受精する。一方で、卵子が複数の精子と同時に受精してしまうと雄由来の余分なゲノムDNAが受精卵内に持ち込まれてしまい、適切に細胞分裂できず、異常な発生をしてしまうことが知られている。

哺乳類などの卵では受精後、数十分後に透明帯という卵を覆う構造の化学組成が変化し、多精子受精を拒否(多精拒否)することが報告されている。一方で、卵子は受精時にはすでに多数の精子にさらされることから、早い段階で多精拒否する仕組みの存在が示唆されていた。しかし、その実体はほとんど明らかにされていなかった。

線虫のMARC-3欠損で卵子の一部が多精になると判明

研究グループは、 C. elegansにおいて受精後に卵子の表面(細胞膜)で働いたタンパク質が、受精後に細胞の中に取り込まれて選択的に分解され、新たに合成されたタンパク質に置き換わっていく現象に着目し、この過程に働く因子としてMARC-3(ヒトではMARCH3が類似)を見出した。

MARC-3は膜を4回貫通している膜タンパク質で、タンパク質の分解や機能制御に働くユビキチンという分子を他の分子に結合する酵素()。この分子を欠損した卵母細胞の一部は、1つ目の精子が受精して約10秒以内に2つ目の精子が受精してしまう多精の状態になることが明らかとなった。卵によっては最大3つの精子が受精していたという。

MARC-3が早期多精拒否に関与、哺乳類の類似遺伝子MARCH3欠損マウスで調べる予定

線虫の場合は透明帯の代わりにキチンという物質が卵殻を形成し、多精拒否する仕組みが知られているが、MARC-3欠損卵ではキチンからなる卵殻は形成されていた。卵殻が形成できない卵についても解析を行ったところ、これらの卵では受精後3~5分後に2つ目の精子が受精していた。また、MARC-3欠損卵で卵殻ができないようにすると多精となる割合がさらに増加した。

このことから、MARC-3は早期の多精拒否、卵殻は遅い多精拒否に働いていることが示唆された。また、MARC-3が他の分子にユビキチンをつける活性に重要なRING-CHドメインという部分に変異を導入するとやはり多精になることから、ユビキチン化のメカニズムが多精拒否に重要であることが示唆された。MARC-3をコードする遺伝子の類似遺伝子MARCH3はヒトやマウスなどの哺乳類にも存在しており、現在、MARCH3遺伝子を欠損したマウスを作製中だという。

ヒトなど哺乳類の多精拒否の仕組み解明に役立つ可能性

今回の研究成果により、これまでほとんど不明だった受精直後の早い多精拒否の仕組みの一端が明らかとなった。多数の精子に取り囲まれた状態で、ただ1つの精子とのみ受精することは生命の誕生と発生においてきわめて重要な現象だが多くの謎が残されている。例えば、一般的な教科書などに記載されている多精拒否に関する知見の多くは、主にウニなどの体外で受精する生物の研究から得られたものであり、哺乳類や線虫などの体内受精する生物に関しては不明な点が多い。今回、哺乳類にも保存されているMARC-3欠損卵で早期の多精拒否に異常が見られたことから、哺乳類における解析も飛躍的に進むことが期待される。

「近年、出産の高齢化に伴い、体外受精により妊娠・出産をするケースが増大してきている。この際、加齢した卵に対して通常の体外受精を行うと多精になりやすいケースや、加齢と多精頻度の増加との関連性なども報告されている。これらの知見は加齢に伴い卵の多精拒否の仕組みが弱まっている可能性を示唆している。今後、哺乳類の卵における多精拒否メカニズムの解明が待たれる」と、研究グループは述べている。

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