骨格筋刺激による抗炎症因子の分泌促進は、炎症を制御する実用的な手段となるのか?
神戸大学は1月24日、人体最大の分泌器官である骨格筋に超音波を照射することで、抗炎症作用をもつ細胞外小胞と呼ばれる粒子の分泌が増加し、免疫細胞の病的な炎症反応を抑制できることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院保健学研究科の前重伯壮准教授、博士後期課程大学院生の山口亜斗夢氏らの研究グループと、米国ハーバード大学、中国上海科学技術大学・南京医科大学との国際共同研究によるもの。研究成果は、「eLife」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
マクロファージは自然免疫系において重要な役割を果たしており、外敵に対する生体防御の最前線を担っている。一方で、マクロファージの過剰な炎症反応は、体のさまざまな臓器を損傷して老化させるため、適切に制御される必要がある。
骨格筋は通常、体を動かすための運動器官として認識されている一方、人体最大の分泌器官として、さまざまな因子を血中に分泌することで、身体全体の健康の維持に貢献していることも知られている。さらに、骨格筋は皮膚の下に広く分布しているため、外から簡単に刺激を与えられる分泌器官でもある。そのため、骨格筋刺激による抗炎症因子の分泌促進は、全身的な炎症を制御する実用的な手段となる可能性があった。
研究グループは以前、骨格筋由来細胞外小胞がマクロファージの炎症反応を抑制することや、骨格筋細胞への高強度超音波照射が細胞外小胞の放出量を2倍以上に増大させることを発見していた。
超音波照射が強度依存的に骨格筋由来細胞外小胞の放出を促進
今回の研究では、これらの成果に基づき、パルス超音波刺激による骨格筋細胞外小胞の放出促進およびそれによる抗炎症作用について検証した。
その結果、超音波照射が強度依存的に骨格筋由来細胞外小胞の放出を促進することが明らかになった。また、抽出された細胞外小胞のサイズ測定により、エクソソームと呼ばれる細胞外小胞が多数を占めることが判明した。
カルシウムイオン流入が、細胞外小胞の放出促進を仲介している可能性
研究グループはさらに、超音波が骨格筋からの細胞外小胞放出を促進するメカニズムについて検証した。その結果、細胞外小胞放出促進因子であるカルシウムイオンの細胞内への流入が超音波の照射後に増大していることを発見し、カルシウムイオンの枯渇によって超音波による細胞外小胞放出促進効果が打ち消されることを確認した。これにより、カルシウムイオンの流入が超音波による細胞外小胞の放出促進を仲介していることが示唆された。
骨格筋培養上清に含まれる細胞外小胞がマクロファージに対する抗炎症効果を発揮
次に、超音波誘発性の細胞外小胞の免疫制御効果を検証するため、マクロファージの過剰炎症反応に対する効果を検証したところ、超音波誘発性の骨格筋由来培養上清がマクロファージの炎症反応を有意に抑制することが明らかになった。
また、細胞外小胞を除去した骨格筋由来培養上清を添加したところ、同効果が消失したため、骨格筋培養上清に含まれる細胞外小胞がマクロファージに対する抗炎症効果を発揮することが示唆された。
超音波刺激は細胞外小胞の内容物を維持しつつ骨格筋からのmiRNA分泌量を増大
続いて、超音波刺激時/非刺激時の骨格筋由来細胞外小胞についてmiRNAの網羅的解析を行ったところ、計524種のmiRNAが同定され、中には非刺激時のみに発現しているものや、超音波照射時にのみ発現しているものも認められたが、miRNA量ベースでは非刺激時と超音波照射時で変化のないmiRNAが総量の99.99%を占め、超音波刺激は細胞外小胞の内容物を維持しつつ骨格筋からのその分泌量を増大させることが示唆された。また、超音波の照射により発現が変動した遺伝子もいくつか同定されており、増加したものの中には抗炎症性を有するmiR-193aなども含まれていることが明らかとなった。
骨格筋を刺激することによる新規免疫制御法の開発に期待
今回の研究により、骨格筋を外部から刺激することによる、骨格筋由来細胞外小胞放出促進を介した全身的な炎症制御法開発の基盤となるデータが得られた。
「本成果に基づき、通常は体を動かすための運動器官とされる骨格筋を人体最大の分泌器官として捉え、物理刺激を利用してその分泌能を最大限活用する、物理療法による代謝の促進と骨格筋の内分泌に焦点を当てた新たな免疫管理法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・神戸大学 プレスリリース