病態解明が進み、国際的に名称変更を求める声
名古屋市立大学は1月22日、特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)について、システマティックレビューにより、大人の慢性水頭症の名称に関連した48の異なる名称を抽出し、発症時の年齢、症状、病態生理等に基づいて、新たに7つのグループに分類、名称について協議を重ね、新たに「Hakim’s disease」(ハキム病)に変更することを提案したと発表した。この研究は、同大脳神経外科学講座の山田茂樹講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「World Neurosurgery」に掲載されている。
画像はリリースより
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水頭症とは頭に水が溜まることで症状をきたす病気である。子どもが罹る病気として広く認知されているが、実際には大人になってから慢性水頭症に罹患し、手術が必要となる患者の方が多い。特に、75歳前後で歩行・バランス障害、物忘れ、尿失禁の3つの症状が次第に進行し、介護が必要になる特発性正常圧水頭症(iNPH)は、高齢者人口の約1%に潜む病気であり、早期発見・治療介入が健康寿命の延伸、介護負担の軽減、社会コストの削減につながると考えられる。
特発性(クモ膜下出血など先行する疾患のない原因不明の)正常圧(頭蓋内圧が高くない慢性の)水頭症という名称は、1965年に提唱されて以降定着している。しかし、複雑で難解なため専門家以外には浸透しにくく、昨今の研究により病態解明が進み、ことさらに原因不明という疾患ではなく、全ての患者が正常圧とはいえない等の理由から、名称変更を求める声が国際的にも高まっていた。
大人の慢性水頭症の名称に関連した論文から48の異なる名称を同定し、7つに分類
2019年5月、国際水頭症学会が主導するガイドライン改定に向けて第一回会合が東京で行われ、ガイドライン改定に先立って名称を整理する必要性を認識し、名称変更研究グループが立ち上がり、システマティックレビューとWEB会議を繰り返し、4年半に及ぶ協議の末、コンセンサスを得て今回の発表となった。
水頭症の名称に関連する可能性がある4,043の研究論文を抽出した後、2人以上の査読者で論文を判別し、最終的に大人の慢性水頭症の名称に関連した33論文から48の異なる名称を同定した。これらの名称を、発症時の年齢、症状、病態生理等に基づいて、新たに7つのグループに分類した。そして、国際的にも批判が大きかった特発性正常圧水頭症(iNPH)の名称を「Hakim’s disease(ハキム病)」に変更することを提案した。
1)Hakim’s disease(ハキム病):従来、特発性正常圧水頭症(iNPH)と呼ばれていた慢性水頭症. 発症時年齢は平均75歳で、歩行・バランス障害、物忘れ、尿失禁の3つの症状が次第に進行
2)Early midlife hydrocephalus:ハキム病と同じ症状の他に、頭痛、視野異常、めまい、失神等の症状で40代、50代に発症する慢性水頭症.脳室拡大が顕著
3)Late midlife hydrocephalus:ハキム病と同じ症状の他に、頭痛、視野異常等の症状で60代から75歳までに発症する慢性水頭症.脳室拡大が顕著
4)Secondary hydrocephalus:クモ膜下出血、脳腫瘍、重症頭部外傷、髄膜炎等の脳疾患に続いて発症する慢性水頭症
5)Compensated hydrocephalus:脳室拡大が顕著にも関わらず、頭痛等の軽微な症状か、ほとんど症状をきたしていない慢性水頭症.日本の山形大学のグループが提唱したAVIM(asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI)もこの分類に含む
6)Genetic hydrocephalus:家系内で慢性水頭症が複数人発症し、遺伝的要因の影響が強く示唆される、もしくは疾患関連遺伝子が同定された慢性水頭症
7)Transitioned hydrocephalus:幼少期に水頭症と診断され、成人期に移行した慢性水頭症
疾患名変更により認知度を上げ、見逃し防止に寄与
水頭症の名称は、専門家が自分の経験した症例シリーズに基づいて分類を試みたり、従来の分類には属さないと考えられる水頭症を発見したとする研究者が論文内で新たに命名する等が歴史的に繰り返され、名称が乱立していたため、有病率や診断・治療法の確立、病態生理の解釈の妨げとなっていた。さらに、最も患者数の多い特発性正常圧水頭症(iNPH)は、アルツハイマー病やパーキンソン病と並んで高齢者のcommon diseaseとして認知されるべき疾患だが、名称の複雑さ故に周知されず、未だに見逃されることが多いことが課題となっている。
「大人の慢性水頭症を7つに分類し、特発性正常圧水頭症(iNPH)をハキム病と名称を改めることで、アルツハイマー病やパーキンソン病と同等なレベルまで国際的な認知度を高め、症状が重症化するまで発見されない患者を減らすことに貢献したい」と、研究グループは述べている。
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・名古屋市立大学 プレスリリース