メラトニンより強く長期記憶を誘導する「AMK」、記憶に重要な海馬での量を測定
立教大学は1月19日、老齢になると記憶力が低下する原因の一つがメラトニンの脳内代謝産物であり、短期記憶から長期記憶への記憶の固定に関与する物質AMKの海馬における激減にあることを初めて突きとめたと発表した。この研究は、同大スポーツウエルネス学部の服部淳彦特任教授(東京医科歯科大学名誉教授)、同学部の丸山雄介助教、加藤晴康教授、公立小松大学の渡辺数基日本学術振興会特別研究員(PD)、平山順教授、関西医科大学の岩下洸助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Pineal Research」オンライン版に掲載されている。
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加齢に伴う記憶力の低下や認知症の問題は、超高齢社会において解決すべき喫緊の課題だ。松果体から夜間に分泌され、ヒトでは睡眠との関連が深いメラトニンは、脳内で物質N1-acetyl-5-methoxykynuramine(AMK)に代謝(変換)される。研究グループは2021年に、AMKには、メラトニンよりもはるかに強い長期記憶の誘導効果があること、すなわち、短期記憶から長期記憶への固定作用があることを突きとめている。
そこで今回、研究グループは、老齢になると記憶力が低下するのは海馬(記憶に重要な脳の部位)におけるAMKの低下が原因ではないかと考え、海馬におけるAMK量を測定し、その合成経路の解明と老齢になると長期記憶形成に関与するどの遺伝子群が低下するのかを網羅的に解析した。
老齢マウスで海馬AMK量が激減、その時AMK合成関与の酵素遺伝子発現低下
研究グループは、海馬でどのようにAMKが合成されるのかを解明するために、松果体、血漿、海馬のメラトニン、メラトニンから作られる第一段階の代謝産物AFMK(N1-acetyl-N2-formyl-5-methoxykynuramine)とAFMKから作られる代謝産物AMKの量を比較した。その結果、松果体から分泌されたメラトニンが血液を介して海馬に到達して、その後、海馬においてAMKに変換されることがわかった。この時、AMKの合成に関与する酵素の遺伝子の検討も行い、新しい候補遺伝子を確認した。
マウスにおいても、老齢になると記憶力が低下することを明らかにしている。そこで、その原因を調べる実験を行った。その結果、老齢になると海馬におけるAMKの量が若齢の20分の1以下になること、また、その時にAMKの合成に関わる酵素の遺伝子の発現が有意に減少することが明らかになった。
AMK投与により、海馬での記憶形成に重要なタンパク質のリン酸化を誘導
あわせて、AMKを投与すると海馬において記憶形成に重要であると報告されているタンパク質のリン酸化が誘導されることも、見出した。
さらに、老齢マウスと若齢マウスの海馬で発現している遺伝子を網羅的に解析した結果、老齢になると長期記憶形成に関与する多数の遺伝子の低下を認めた。
AMK基盤の新薬開発、記憶力の改善・MCI薬につながる可能性
今回の研究成果から、ヒトにおいても老齢になると海馬におけるAMK量が低下し、そのことにより記憶力の低下が引き起こされている可能性が考えられる。メラトニンは海外では睡眠を促すサプリメントとして広く利用されており、ヒトにおいて副作用がほとんどないことがわかっている。高齢者の生活の質(QOL)を向上させるためには、記憶力低下の改善は重要な課題だ。AMKあるいはAMKを基盤とした新薬の開発は、加齢性の記憶障害や認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)における記憶力改善薬として期待される。さらに、ヒト以外でも、ペットの高齢化への対処や警察犬や盲導犬の学習時の利用が考えられ、今後の展開が楽しみな物質だ、と研究グループは述べている。
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