在宅非がん高齢者の苦痛の実態は不明だった
筑波大学は12月26日、在宅訪問診療を受けている非がん高齢者が、どのような症状で困っているかを1年間にわたって調査し、その結果、体の動かしにくさ、だるさ、食欲不振が主な苦痛症状であり、訪問診療を受けていても、それらの症状は十分に緩和されていないことがわかったと発表した。この研究は、同大医学医療系の濵野淳講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Primary Care & Community Health」に掲載されている。
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日本の死亡者数の約70%は非がん患者で、がん患者と比べて症状の頻度が多いことや、がん患者とは異なる症状を感じている可能性が指摘されている。世界保健機関(WHO)も、非がん高齢者に対して質の高い緩和ケアを提供することが必要であり、各国での非がん患者に対する緩和ケアの普及・啓発を推奨している。諸外国の調査で、入院中の非がん高齢者は、がん患者よりも苦痛症状が多いことが明らかになっているが、在宅で過ごす非がん高齢者が、具体的に、どのような症状で困っているかということについては明らかになっていない。そこで研究グループは、訪問診療を受けている非がん高齢者が困っている症状を1年間にわたって調査し、症状の頻度や変化について、検証を行った。
訪問診療受けた65歳以上の非がん患者を対象に経時的に調査
在宅医療を提供している国内の32医療機関で、2020年1月から12月の間に訪問診療を受けた65歳以上の非がん患者を対象に調査を行った。対象は785人で、そのうち317人が12か月間の調査を完了した。対象者は、認知症、心不全、脳卒中などの疾患・症状に対して訪問診療を受けており、訪問診療開始時、開始後3か月、6か月、9か月、12か月の時点で、それぞれ評価した。苦痛症状の評価は、世界的に用いられている評価指標Integrated Palliative care Outcome Scale(IPOS)日本語版を用いて行った。
体の動かしにくさ、だるさに関する困難は1年間変わらず
その結果、訪問診療を開始した時点では、体の動かしにくさやだるさに困っている人が多く、この傾向は1年間変わっていないことがわかった。また、食欲不振に困っている人の割合は多いものの、訪問診療を開始して3か月以降は少なくなる傾向がわかった。そして、がん患者では多く見られる、痛みや呼吸困難の頻度は、あまり多くないこともわかった。なお、訪問診療開始後12か月の時点では、体の動かしにくさやだるさに続いて、便秘に困っている人が多いことも明らかになった。
在宅非がん高齢者に対するケアや支援の検討が必要
これらのことから、訪問診療を受けている非がん高齢者にも、苦痛症状を緩和するための治療・ケア、支援が必要であると考えられる。「今回の調査では、訪問診療による医療やケアが、どのように症状に影響したかということが考慮されていないため、訪問診療を受けても苦痛症状が緩和されないと結論付けることはできない。苦痛症状が同じでも、患者ごとの背景因子や生活状況が異なる可能性があるため、それらを考慮した研究方法、もしくは、解析方法の検討を進めたい」と、研究グループは述べている。
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