IL-17RC異常症の簡便な評価法は存在しなかった
広島大学は12月22日、国内初、世界では4例目となる「IL-17RC異常症による慢性皮膚粘膜カンジダ」症例を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科小児科学の岡田賢教授、野間康輔大学院生らの研究グループと、オーストラリアのGarvan医学研究所、米国ロックフェラー大学のSt. Giles Laboratory of Human Genetics of Infectious Diseasesなどとの共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Immunology」に掲載されている。
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カンジダは皮膚や消化管に存在する常在菌で、口腔カンジダ症・皮膚カンジダ症・膣カンジダ症など、さまざまな感染症を引き起こす。通常これらの感染症は、健常者では重篤化することがなくコントロールされるが、免疫機能が障害された人では時として難治性、持続性ないしは重篤な感染症を起こす。慢性粘膜皮膚カンジダ感染症は、カンジダ属による爪・皮膚・口腔粘膜および性器粘膜の再発性または持続性の感染を呈する先天性免疫異常症で、原則的にカンジダ感染以外には症状を示さないのが特徴だ。カンジダに対する局所免疫にはヘルパーT細胞の亜群であるTh17細胞と、それが産生するインターロイキン17(IL-17)が重要な役割を果たす。慢性皮膚粘膜カンジダ症は、IL-17シグナル伝達経路が特異的に障害されることで発症することが知られている。
IL-17RCはIL-17の受容体ファミリーの一つで、IL-17RAと二量体を形成してIL-17に対する受容体として機能する。IL-17がこの受容体に結合すると下流の分子群が活性化され、ディフェンシンなどの抗菌ペプチドや、CXCL1やCXCL8、IL-6などの炎症性ケモカイン/サイトカインが産生される。これらが免疫系を活性化することにより、最終的にカンジダは排除される。
IL-17RC異常症は、IL17RC遺伝子の異常により発症する常染色体潜性遺伝形式をとる遺伝性疾患。正常なIL-17RCタンパク質が産生されないことでIL-17を介した免疫が機能せず、慢性粘膜皮膚カンジダ感染症を発症する。非常にまれな疾患であり、世界で3家系3例が報告されているのみで、国内での報告はなかった。また、これまでIL17RC遺伝子のバリアントの病的意義を評価する簡便な方法はなく、患者の診断は容易ではなかった。研究グループは今回、新規IL17RC変異による慢性粘膜皮膚カンジダ症を発症した患者を発見し、同患者で認めた遺伝子変異の病的意義を簡便に判断するための診断手法を確立することを目指し研究を行った。
IL17RC遺伝子のホモ接合性新規重複変異を同定し、IL-17RC異常症の診断に成功
まず、生後3か月で口腔カンジダ症と皮膚カンジダ症を発症し、慢性粘膜皮膚カンジダ症と診断された症例に対して遺伝子パネル検査を実施した。その結果、IL17RC遺伝子のホモ接合性新規重複変異(Chr3: 9,971,476-9,971,606 dup (+131bp))が同定された。IL-17RC異常症の患者の細胞では、IL-17に対する反応性が障害されることが知られているが、同患者でもIL-17に対する反応性の障害が認められた。さらに、同患者の細胞に正常なIL-17RCタンパク質を発現させることで、その反応性は回復した。これらのことから、同患者をIL-17RC異常症と診断した。
同定したIL17RC遺伝子変異はIL-17RCの機能を著しく障害することが判明
同症例で認めたIL17RC遺伝子変異は過去に報告がなかったことから、その病的意義を確認するため、同変異がIL-17RCの機能に及ぼす影響を検討した。これまでIL17RC遺伝子変異の病的意義を簡便かつ正確に判断する解析方法は存在しなかった。
そこで、IL-17RCタンパク質を欠損した細胞株(IL-17RC欠損 HeLa細胞)を作製し、同定された変異の解析を行った。IL-17RC欠損HeLa細胞に、正常ないしは変異型のIL-17RCを導入したのち、IL-17A刺激に対する反応性を測定することで機能解析を行った。その結果、同変異はIL-17RCの機能を著しく障害する変異であることが判明した。
IL-17RC欠損HeLa細胞を用いた検査法の活用に期待
今回の研究で解析を行ったIL-17RC異常症患者の臨床的あるいは分子的表現型は、これまでに報告された3例と一致し、IL-17RC異常症の疾患概念確立に寄与する発見となった。
「今回開発したIL-17RC欠損HeLa細胞を用いた検査法は、病的意義が明確ではないIL17RC遺伝子変異を評価する手法として、今後の活用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果