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禁酒・節酒は食道の異型上皮を改善し多発性の発がんを抑制-京大ほか

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2024年01月04日 AM09:00

食道や頭頸部に見られる多発性ヨード不染域、禁酒で改善するか

京都大学は12月22日、日本食道コホート試験(Japan Esophageal Cohort [JEC]試験)を通して、・節酒をすることで前がん病変が減少し、多発性の発がんを抑制することを世界で初めて臨床的に明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の武藤学教授、堅田親利特定准教授、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の堀圭介医員(現:一宮西病院消化器内科副部長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Esophagus」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本における食道がんは年間約2万6,000人に発生する。食道がんには大きく分けて扁平上皮がんと腺がんの2種類があるが、日本人の約9割は扁平上皮がんである。頭頸部がんは、口やのどにできるがんの総称で、日本では約2万3,000人に発生し、その多くは扁平上皮がんだ。世界保健機関(World Health Organization:WHO)の下部組織である国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer:IARC)は、飲酒、喫煙を食道や頭頸部の扁平上皮がんの明らかな発がん因子(ヒトに対して明らかに発がん性がある)と認定している。また、食道や頭頸部には扁平上皮がんが多発することが以前から知られており、領域がん化(Field cancerization)現象といわれている。

食道や頭頸部の前がん病変である異型上皮は、ヨード色素内視鏡検査を行うと不染色域として視認できるが、多発性にヨード不染域を認めることがある。以前に研究グループは、これを「multiple Lugol-voiding lesions (multiple LVL)」と命名し、multiple LVLが領域がん化に強く関与することを報告するとともに、飲酒や喫煙がその発生に関与することを明らかにしている。

近年の内視鏡診断技術の進歩により、食道扁平上皮がんの多くが早期の段階で発見されるようになり、早期の食道扁平上皮がんは内視鏡による治療(内視鏡的切除)で治せる時代になってきている。一方、がんの発生母地である食道を温存するため、領域がん化現象により多発性の扁平上皮がんが、治療後に食道や頭頸部に発生することで、生命予後や生活の質に悪影響を及ぼすことが大きな課題となっている。これまで、危険因子である飲酒を控え、禁酒や節酒によりmultiple LVLが改善するのか、さらに多発性の扁平上皮がんの発生を抑制するのかは不明だった。そこで、禁酒や節酒による発がん抑制効果を明らかにすることを目的とした研究が行われた。

日本食道コホート試験、食道扁平上皮がん内視鏡切除後に禁酒指導の患者を追跡

JEC試験は、食道扁平上皮がんの内視鏡切除後に、病理組織学的に粘膜内がんと診断され、追加治療を実施しない330例を登録し、6か月ごとの上部消化管内視鏡検査と12か月毎の耳鼻咽喉科診察を継続しながら経過観察をする前向きコホート研究だ。登録時に食道粘膜のヨード不染帯の程度を調査し、文書による禁酒・禁煙指導を実施している。登録例は内視鏡切除例であることから、食道は温存され、長期生存を見込める集団であり、食道粘膜に抗がん剤や放射線の影響が及ぶことなく、計画的に経過観察されている。

食道粘膜のヨード不染帯の程度を3段階(Grade A:ヨード不染帯なし、Grade B:AにもCにも属さないもの、Grade C:内視鏡1画面中にヨード不染帯が10個以上存在するもの)に分類すると、観察期間中央値80.7か月(range1.3-142.3)における5年累積異時性食道がん発生率は、Grade A 6.0%、Grade B 17.8%、Grade C 47.1%であり(Grade A vs. B:P=0.022, A vs. C:P =0.0007)、5年累積異時性頭頸部がん発生率は、Grade A 0.0%、Grade B 4.3%、Grade C 13.3%だった(Grade A vs. B:P=0.12, A vs. C:P<0.0001)。多変量解析では、Grade Cは異時性食道がん発生(HR,8.76;95%CI, 3.02-25.5)と異時性頭頸部がん発生(HR,3.51;95%CI,1.34-9.20)の独立したリスク因子だった。

禁酒・節酒に成功した症例のうち10.8%で食道粘膜のヨード不染帯の程度が改善

今回、研究グループは治療後の飲酒状況と食道粘膜のヨード不染帯の程度の経時的変化と異時性発がんの関連を明らかにすることを目的として、JEC試験の付随研究を実施した。解析対象はGrade Aの50例と登録時に飲酒していなかった48例を除外した232例だった。観察期間中央値42.1か月(範囲1.9-79.1)において、8.2%(19/232)の頻度で食道粘膜のヨード不染帯の程度が改善していた。68.1%(158/232)の症例は禁酒・節酒に成功し、そのうち10.8%(17/158)の頻度で食道粘膜のヨード不染帯の程度が改善していたこともわかった。一方、31.9%(74/232)の症例は飲酒を継続しており、そのうち食道粘膜のヨード不染帯の程度が改善した頻度はわずか2.7%(2/74)だった(p=0.04)。

改善した症例では食道がん、頭頸部がんの発生を80%抑制

食道粘膜のヨード不染帯の程度の累積改善率は、禁酒・節酒に成功した集団は、飲酒を継続した集団に比べて有意に改善していた(p=0.031)。多変量解析では禁酒・節酒がヨード不染帯の程度を改善する独立した因子だった(HR=8.5, CI 1.7-153.8, p=0.0053)。また、食道粘膜のヨード不染帯の程度が改善した集団は、異時性食道がん(Log rank p=0.14,Wilcoxon p=0.066)と異時性頭頸部・食道がん(Log rank p=0.072,Wilcoxon p=0.036)の累積発生率が抑制される傾向が確認された。多変量解析では、食道粘膜のヨード不染帯の程度の改善は、異時性食道がん(HR=0.3, 95%CI 0.04-0.9, p=0.028)や異時性頭頸部・食道がん(HR=0.2, 95%CI 0.04-0.7, p=0.009)の発生を抑制する独立したリスク因子だった。

今回の研究より、領域がん化現象は可逆的であり、禁酒・節酒は食道粘膜のヨード不染帯の程度を改善し、異時性発がんを抑制することが示された。「この成果は、禁酒・節酒をすることで食道の前がん病変を減少させ、多発性の発がんを抑制することを世界で初めて臨床的に明らかにするとともに、食道および頭頸部の発がん予防に活用されることが期待される」と、研究グループは述べている。

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