扁桃体における「情報伝達」の仕組みは不明点が多かった
東京慈恵会医科大学は12月15日、恐怖などの嫌悪を感じた際に活動する扁桃体で、学習に伴い情報伝達の仕組みが変化することを発見したと発表した。この研究は、同大総合医科学研究センター臨床医学研究所の森島美絵子特任講師、医学科6年生の松村颯大氏、渡部文子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Cellular Neuroscience」に掲載されている。
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恐怖などの嫌悪の記憶はヒトや動物が危険を回避し生存するために必須である一方、制御が上手く行かないと多様な精神疾患につながる。扁桃体は以前から恐怖の感情と関係があることが知られていたが、情報伝達の仕組みについていまだ不明な点が多くある。
嫌悪学習はヒトと動物の生存に重要だ。特にマウスにおける「音条件づけ嫌悪学習」は、嫌悪学習機構明らかにするための実験方法として知られている。研究グループは今回、音条件づけ嫌悪学習に関わる経路、視床―扁桃体においてどのような情報処理システムが働くのかについて、扁桃体興奮性細胞をサブタイプ分けし、詳細に調べた。
扁桃体の興奮性神経細胞は、異なる性質を持つ2種類が存在
まず、扁桃体脳スライス標本の神経細胞を活動電位の後に見られるafter depolarized potential(ADP)の有り無しで「non-ADP細胞」と「ADP細胞」にサブタイプ分けをした。
次に、行動実験を行う4週以上前にチャネルロドプシンを視床に注入し、嫌悪記憶を形成したマウス(FC)と音だけを聞かせたコントロールマウス(Con)から扁桃体脳スライス標本を作製し、電気生理学的手法と光遺伝学的手法を組み合わせた実験を行った。視床-扁桃体経路の軸索を光刺激し、2種類の扁桃体興奮性細胞サブタイプへの入力について比較した。その結果、抑制性神経細胞を介したフィードフォワード抑制情報が2つのサブタイプ間で異なることが明らかになった。
扁桃体の2種類の興奮性細胞への抑制性入力が、嫌悪学習に伴って逆転
嫌悪学習後、ADP細胞へのフィードフォワード抑制入力は増加し、I/Eバランスは劇的に変化した。一方、non-ADP細胞のフィードフォワード抑制は僅かに減少し、I/Eバランスは逆に変化したという。
さらに、抑制制御に関わる候補の抑制細胞と2種の興奮性細胞サブタイプのシナプス結合パターンを調べた。その結果、興奮-抑制神経回路が扁桃体興奮性細胞サブタイプによって異なる可能性が示唆された。これらのことから、I/Eバランスの変化は、異なる抑制性細胞を介して、最終的にnon-ADP細胞とADP細胞の相対的な出力の制御に寄与していることが示唆された。
将来的には情動破綻を伴う多様な疾患の神経回路メカニズム解明に貢献できる可能性
今回の研究成果により、嫌悪学習に伴い扁桃体の2種類の興奮性細胞への抑制性入力が逆転することが見出された。
「さらに詳細な機構を明らかにすることで、将来的には、PTSDなどの情動破綻を伴う多様な疾患の神経回路メカニズム解明に貢献できる可能性が考えられる」と、研究グループは述べている。
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