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海藻成分を用いた創傷治療用ゲル開発に成功、創傷部の一時的な拡張防ぐ-東京理科大

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2023年12月20日 AM09:30

アルギン酸を原料としたハイドロゲルは創傷治療に応用可能な材料、先行研究で

東京理科大学は12月15日、海藻の成分であるアルギン酸塩と炭酸カルシウム(CaCO3)の混合水溶液に炭酸水を加えるという簡便な合成法により、低接着性かつ低膨潤性の創傷治療用ゲルを開発することに成功し、開発したゲルが高い創傷治癒効果を有すると同時に、臨床使用されているゲルで生じる創傷部の一時的な拡張を防げることを実証したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科化学専攻の手島涼太氏(2023年度修士課程2年)、同大学理学部第一部応用化学科の大澤重仁助教(発表当時、現 東京女子医科大学先端生命医科学研究所特任助教)、大塚英典教授、同大学薬学部薬学科の吉河美季氏(2022年度卒業)、河野弥生客員准教授、花輪剛久教授の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Biological Macromolecules」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ハイドロゲルは皮膚組織からしみ出す滲出液を吸収すると同時に、湿潤環境を維持して創傷治癒を促進する。近年、これらの性質を利用して創傷の保護と迅速な治癒を行える創傷治療用ゲルが数多く開発されている。これら創傷治療用ゲルの設計には、皮膚の動きに追従するための「接着性」と滲出液を吸液するための「膨潤性」を付与することが通説だった。しかし、ハイドロゲルが皮膚に接着した状態で滲出液を吸収し膨張すると、創傷部分も一緒に引っ張られてしまうため、創傷部の拡張を引き起こす危険性が考えられる。これまでに、このような創傷部の拡張に焦点を当てた対策は講じられてこなかった。そのため、ハイドロゲルの接着性・膨潤性と創傷部の拡張について相関性を明らかにし、創傷部に優しく、より高い機能を有する創傷治療用ゲルの開発が求められていた。

研究グループは、これまでに生体適合性が高いことはもちろん、環境にもやさしい高機能性ハイドロゲルの創製に成功してきた。特に、天然多糖類の1つで海藻の成分であるアルギン酸を原料としたハイドロゲルが創傷治療に応用可能な材料であることを明らかにしてきた。今回、これまでの知見を生かし、アルギン酸を原料とするハイドロゲルを実際の創傷治療用ゲルとして実用化を目指し、研究を行った。

アルギン酸塩と炭酸カルシウムの混合水溶液に炭酸水を加えるという合成法

研究グループはまず、アルギン酸カリウムとCaCO3(0.15, 0.20, 0.30 w/v%)の混合溶液を作成した後、炭酸水を加えることで、CaCO3濃度の異なる3種類のアルギン酸ゲル(Alg-Ca0.15, Alg-Ca0.20, Alg-Ca0.30)を合成した。走査型電子顕微鏡(SEM)やゲル強度測定の結果より、いずれのアルギン酸ゲルにおいても3次元の網目構造が形成されており、変形に強いことが明らかとなった。一方、CaCO3濃度が増加するとゲル化時間が短縮されるが、ゲルの透明性や架橋度の低下につながることもわかった。

次に、NHDF細胞(ヒト皮膚線維芽細胞)を対象として、アルギン酸ゲルの生体適合性と細胞接着性を評価した。その結果、すべてのアルギン酸ゲルにおいて、NHDF細胞生存率がほぼ100%であることがわかった。また、組織培養ポリスチレン(TCPS)プレート上で培養したNHDF細胞は細長く伸びて接着していたのに対し、アルギン酸ゲル上で培養したNHDF細胞はスフェロイドと呼ばれる3次元凝集構造を形成していることがわかった。このことから、アルギン酸ゲル表面では細胞接着性が低いことが明らかとなった。以上の結果から、アルギン酸ゲルが創傷被覆材として十分に高い生体適合性と低細胞接着性を有していることが実証された。

既製品よりも低接着性・低膨潤性を有することを実証

さらに、Alg-Ca0.20のマウスの皮膚組織に対する接着性と膨潤性を評価した。比較対象として臨床使用されているハイドロゲル創傷治療材(製品名:)を使用した。ビューゲルは15、30、45%のひずみに対し、それぞれ7122、8306、9052N/m2の皮膚接着力を示すことがわかった。これは、Alg-Ca0.20の11.9~16.5倍の接着力に相当。また、ビューゲルの生理食塩水の吸収に伴う重量変化は226%で、Alg-Ca0.20の1.9倍以上になることがわかった。以上の結果から、Alg-Ca0.20はビューゲルよりも低接着性・低膨潤性を有することが実証された。

既製品に匹敵する治療効果を創傷モデルマウスで確認

最後に、アルギン酸ゲルの低皮膚接着性・低膨潤性創傷治療材としての効果を実証するため、Alg-Ca0.20とビューゲルを創傷モデルマウス(db/dbマウス)に貼付して創傷治癒効果を評価した。各ハイドロゲルをマウスの創傷部位に固定し、創傷面積の変化を経時的に測定したところ、両者における創傷治癒効果に有意差はなかったことから、Alg-Ca0.20はビューゲルに匹敵する高い治療効果を示すことが示唆された。

低接着性・低膨潤性が、ゲルの膨潤によって引き起こされる創傷部の拡張を防ぐ

一方、ビューゲルで覆われた創傷部はその接着性と膨潤性により、一時的に面積が拡大することがわかった。創傷部の拡張は創傷治癒の初期にのみ観察され、これは創傷治癒の初期段階に多量の滲出液が産生しゲルが大きく膨潤したことが原因と考えられる。しかし、Alg-Ca0.20はビューゲルよりも低皮膚接着性と低膨潤性を有しているため、このような創傷部位の拡張を抑制することができた。これらの結果は、これまでの創傷治療用ゲルと真逆の特性である低接着性・低膨潤性が、ゲルの膨潤によって引き起こされる創傷部の拡張を防ぐことを示唆している。

「研究をさらに発展させることで、新たな創傷治療用のゲル材料としての実用が期待される。また、研究で使用されたアルギン酸塩は海岸に漂着した海藻から抽出されたものであり、廃棄材料を再利用して高機能材料を合成する道筋を示したという観点から、環境問題などSDGsの達成への貢献が大きく期待される」と、研究グループは述べている。

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