脳小血管病の機能的転帰を改善する治療法は?
新潟大学は12月8日、経口糖尿病薬「メトホルミン」による脳小血管病に対する神経保護効果を明らかにしたと発表した。この研究は、同大脳研究所・脳神経内科学分野の秋山夏葵大学院生、金澤雅人准教授、小野寺理教授らの研究グループと、国立循環器病研究センター脳神経内科の山城貴之医師(研究当時)、服部頼都医長、猪原匡史部長との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of the Neurological Sciences」に掲載されている。
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機械的血栓除去術などの血管内治療により、脳梗塞患者の機能的転帰は以前より改善した。しかし、血管内治療の適応となる脳梗塞の病型は限られている。脳梗塞は、主に太い血管(大血管)が障害されるタイプ、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞、分枝粥腫病(BAD)のサブタイプに分類される。ラクナ梗塞とBADは脳の太い血管の閉塞ではなく、より細い血管の閉塞による脳梗塞で「脳小血管病」と総称される。一般的に血管内治療の適応となるのは大血管の脳梗塞であり、脳小血管病は血管内治療の適応にはならない。また、内服でも脳小血管病を予防するのは難しいのが現状だ。そのため、脳小血管病の機能的転帰を改善する治療が望まれていた。
近年、2型糖尿病の治療に広く使用される経口糖尿病治療薬であるメトホルミンが、血糖調整作用に加えて脳神経に対する保護作用を有し、脳血管障害のみならず、Long-COVIDの予防や認知症のリスク軽減に有効であることが示されている。脳梗塞に対するこれまでの研究では、メトホルミンが脳梗塞患者の神経症状の重症度や血栓溶解療法後の予後を改善することが明らかになっている。しかし、血管内治療の適応がない脳梗塞患者におけるメトホルミンの影響や、異なる脳梗塞サブタイプにおけるメトホルミンの効果は明らかになっていなかった。
脳小血管病に対するメトホルミン治療が神経症状の重症度軽減/退院時の症状改善に関連
研究グループは、血管内治療の適応がない2型糖尿病の脳梗塞患者において、脳梗塞発症前のメトホルミン治療が神経症状の重症度と退院時の症状改善に関連するのか、また、脳梗塞のサブタイプごとにメトホルミンの影響が異なるかを明らかにするため、新潟大学医歯学総合病院脳神経内科と国立循環器病研究センター脳神経内科に入院した血管内治療の適応とならなかった脳梗塞患者で、入院前からメトホルミンを含めた何らかの糖尿病薬を内服していた160人の臨床情報と画像データを収集し、解析を行った。
その結果、脳梗塞発症前のメトホルミン治療が、特に細い血管が障害される脳梗塞(脳小血管病)のタイプの患者において、神経症状の重症度軽減と退院時の症状改善に関係することが判明した。
メトホルミン内服で、血中炎症指標「低」
実際に、メトホルミンを内服している患者とそうでない患者を比べると、血液中の炎症を反映する指標(好中球/リンパ球比や炎症性サイトカインIL-6値)が、メトホルミンを内服している患者の方が低く、炎症が抑えられていることが関係していると考えられるという。
引き続き、メトホルミンの投与量・投与期間の検討が必要
今回の研究成果により、血管内治療の適応にならない脳小血管病患者の予後を改善する薬剤として、メトホルミンが有用であることが示された。引き続き、脳梗塞発症前の具体的なメトホルミンの投与量や投与期間を検討することが、実際の治療のためには必要と考えられる。
「メトホルミンの投与期間と投与量に関する前向き検証研究が今後の課題だ。一方、本研究は糖尿病を合併している脳梗塞患者の結果であり、糖尿病を有さない患者には当てはまらない。また、糖尿病の治療は心臓、腎臓の状態によっても治療の選択は異なる。全ての患者において有効ではないことには注意が必要だ」と、研究グループは述べている。
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