医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 日本人女性の乳がん、座位が1日7時間以上でリスク上昇-京都府医大ほか

日本人女性の乳がん、座位が1日7時間以上でリスク上昇-京都府医大ほか

読了時間:約 3分15秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年12月11日 AM09:10

日本人は世界最長の座位時間、1日の座位時間と乳がん罹患の関係は?

京都府立医科大学は12月5日、日本人について、1日7時間以上座っていることが乳がん罹患リスクを上昇させることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科内分泌・乳腺外科学(同大学大学院医学研究科地域保健医療疫学併任)フューチャーステップ研究員の富田仁美氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

乳がんは日本人女性で罹患率が最も高いがんだ。がんは生活習慣、環境要因、遺伝子など、さまざまな原因が組み合わさることで発症するが、35%ほどは生活習慣を改善することで予防できると言われている。日本人の乳がん罹患の原因のうち、およそ5%は運動不足に起因していると言われ、運動は乳がん罹患のリスクを下げる効果がある。しかし、年齢や性別、体格に差があるため、「一人ひとりの適度な運動量」を明確に提示することは困難だ。

近年、長時間の座位行動(横たわるなども含む)は、健康に悪影響を与えるものとわかってきており、2020年に改定されたWHO身体活動・座位行動のガイドラインにおいても「健康を害する行動」として位置づけられ、座位行動を減らすように推奨されている。他国ではガイドラインを作成するなど、座位時間を少なくする対策が進められている。国際標準化身体活動質問票2011年のデータ(日本人約5,000人)によると、日本人の座位時間は、世界で一番長く、中央値は1日当たり7時間という結果が出ている。座位時間とがん罹患の関連についても指摘され始めているが、1日の座位時間と乳がん罹患の関係を示した報告はまだない。

日本人女性3.6万人以上対象/9.4年間(中央値)追跡データで分析

今回の研究では座位時間と乳がん罹患の関連を明らかにし、さらに運動することがその関連の解消になるかについて分析を行った。具体的には、3.6万人を超える日本人女性を9.4年間(中央値)追跡したデータを用いて1日の座位時間と乳がん罹患の関係を分析した。さらに、余暇の運動量として代謝当量(METs[hour/day])、余暇の運動頻度、1日の歩行時間と座位時間を掛け合わせた影響を分析した。なお、同研究は、J-MICC STUDY(日本多施設共同コホート研究)の一環として行われた。

1日7時間以上座位、7時間未満と比較で乳がん罹患リスク36%高

研究の結果、追跡期間中に554人の乳がん罹患が認められた。1日当たりの座位時間が7時間未満の集団と比較し、7時間以上の集団の方が乳がん罹患リスクは36%高い結果だった。しかし、座る時間が長くなるほど乳がんの罹患リスクが上がり続けるわけではなかった。

1日7時間以上座位、余暇の運動量・頻度と1日の歩行時間増で予防効果認めず

日本人を対象とした過去のコホート研究では、余暇の運動や1日1時間以上の歩行時間と乳がん罹患リスク低下の関連が示されている。そこで、身体活動に関する項目と座位時間と乳がん罹患の関係を掛け合わせて解析。1日当たりの座位時間が7時間以上の集団は、余暇METs 1 hour/day以上の運動、余暇に週3回以上の運動、1日1時間以上の歩行などのいずれの身体活動において、7時間未満の集団より、乳がん罹患リスクが高い結果となった。なお、METs 1 hour/dayとは、1週間当たり1時間のジョギングをする運動量に相当する。

乳がん罹患、運動より「座位時間」が強い影響を与える可能性

今回の研究は日本人女性における1日の座位時間と乳がん罹患との関連を評価した初の大規模研究だ。1日当たり7時間以上座って過ごすと乳がんリスクが36%上昇することがわかり、この結果は世界で最も長い時間を座位で過ごすといわれている日本人にとって重要だ。また、1日7時間以上の座位時間では、余暇の運動や1日の歩行時間が増えても乳がん罹患リスクは低下しなかった。同研究結果は、乳がん罹患において座位時間が運動よりも強い影響を与える要因である可能性を示している。今回、1日当たりの座位時間を7時間未満にすることは、乳がん予防の一つとなることが明らかになった。

研究グループは先行研究により、座位時間の延長と死亡リスクの増加を報告しており、女性だけでなく男性においても長すぎる座位時間を短縮することが推奨されている。テレワーク普及により、今後も在宅業務による家庭内デスクワークの継続導入が予測される。在宅業務は、通勤時間が削減されるため、運動不足に加え、座っている時間の延長につながる可能性がある。

今回の結果より、普段の座りっぱなしによる運動不足を解消するために、余暇の時間にまとめて運動することよりも、普段から座位時間を短縮し、こまめに運動を取り入れることが効果的であると考えられる。研究グループは、座りっぱなしに気がついたら立ち上がってストレッチをしてみる、普段の移動にエスカレーターではなく階段を使ってみる、隙間時間に体操をしてみるなど、日々の小さな心がけで健康を維持していくことを提案している。

J-MICC STUDYは進行中の研究であり、がん罹患や死因などの追跡調査を行っているため、乳がんのみならず他のがんと座位時間の関連も今後解明されていく可能性がある、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大