低血糖やグリコーゲン蓄積を来す糖原病Ia型、長期安定に疾患管理できる治療薬が必要
広島大学は12月4日、核酸医薬による糖原病Ia型の治療可能性をヒト細胞および病態モデル動物を用いて示したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の伊藤健太郎研究員(現 第一三共株式会社)、岡田賢教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Investigation」にオンライン掲載されている。
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糖原病Ia型は、肝臓・腎臓に主に発現するグルコース6リン酸脱リン酸酵素(G6Pase-α、遺伝子名:G6PC)が遺伝子変異により機能欠損することで、低血糖やグリコーゲン蓄積による肝腫大・腎障害を示す常染色体潜性遺伝の代謝異常症である。低血糖発作を予防するための夜間も含めた食事療法(数時間ごとのコーンスターチ摂取や特殊ミルクの頻回摂取)が導入され、この病気の予後は改善したが、低血糖に対する不安と食事管理に関する患者家族の負担は大きい上、肝腫大・肝腺腫など管理困難な症状は少なくない。現在、糖原病Ia型に対する治療開発として、AAV遺伝子治療やmRNA治療の臨床試験が行われている。しかし、AAV遺伝子治療は現状複数回投与ができないために有効期間が限られること、mRNA治療は頻回静脈注射が必要かつ投与間の血糖値管理が煩雑であることが懸念されており、治療介入困難な症状を改善し、かつ長期間安定的な疾患管理を可能にする薬剤が求められている。
スプライシング制御するSSO療法、東アジア人に多いc.648G>T変異への治療効果を検討
糖原病Ia型を引き起こすG6PCの遺伝子変異は人種ごとに好発変異があり、c.648G>Tは東アジア(日本、韓国、中国)の患者の大半で検出され、エクソン5の先頭91塩基が欠失する異常スプライシングによりG6Pase機能欠損を呈する変異である。この変異はアミノ酸置換を伴わない(p.Leu216=)ため、異常スプライシングが是正されれば正常G6Paseに翻訳され、糖原病Ia型のさまざまな症状の改善が期待できる。近年、スプライシングを制御する技術としてスプライススイッチングオリゴヌクレオチド(SSO)療法が注目されている。SSOは、pre-mRNAに結合し代替スプライシングを誘導することで機能的なタンパク質を産生するアンチセンスで、既にデュシェンヌ型筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症などを対象とした複数のSSOが薬事承認されている。またアンチセンスは、肝臓に長期間安定局在を可能にする化学修飾や送達技術が臨床で実証されるまでに進展している。以上を踏まえ、糖原病Ia型の新たな治療法としてG6PC c.648G>Tに対するSSO療法の可能性を検討した。
開発されたSSOは細胞とマウスで治療効果発揮、動物実験での安全性プロファイルも良好
G6PC c.648G>Tの異常スプライシングを是正可能かつ肝臓で長期間安定局在可能な化学修飾を付与したSSOとしてDS-4108bをデザインした。G6PC c.648G>T発現ヒト細胞および新規に作出したG6PC c.648G>T薬剤誘導型ノックイン(cKI-Mut)マウスを用いてその効果を検証した。DS-4108bは、G6PC c.648G>T発現ヒト細胞で認めるG6PC異常スプライシングを是正し、G6Pase活性の回復に成功した。また、DS-4108b皮下投与は、cKI-Mutマウスが示すG6PC異常スプライシングとG6Pase活性低下を是正するとともに、絶食時低血糖の改善、肝臓の代謝全体の改善、グリコーゲンや脂質蓄積の低下、肝腫大などの症状の改善を達成した。さらに、マウスおよびサルを用いた薬物動態および安全性試験において、DS-4108bは良好なプロファイルを示した。これらの結果から、月一回程度の投与頻度で空腹時低血糖の予防と、肝腫大などの従来治療介入困難だった症状の改善が期待される。
さらなる非臨床・臨床試験を実施予定、新たな糖原病Ia型治療薬につながる可能性
今回の研究で作出したcKI-Mutマウスの病態をさらに精査し、投与開始時点の病態進行度によるSSOの有効性の違いや腎症状に対するSSOの効果について今後明らかにしていきたいと考えている。「さらなる非臨床試験・臨床試験を通じて、本研究の成果が糖原病Ia型の新たな治療薬につながることを期待している」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果