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1型糖尿病で「う蝕」有病率が高い理由を解明、モデルラットで-新潟大

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2023年11月28日 AM09:30

う蝕有病率が高いDM1、全身循環障害により歯髄保存が困難

新潟大学は11月22日、1型糖尿病における歯髄創傷遅延のメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科う蝕学分野の大学院生Rosa Baldeon氏(博士課程3年)、大倉直人助教、野杁由一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Endodontics」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

1型糖尿病は、小児期の最も一般的な慢性疾患のひとつであり、持続的な高血糖によってさまざまな慢性的合併症を引き起こす。糖尿病によるインスリン抵抗性と高血糖は、歯周炎、)やがんなどの口腔疾患を発症する可能性がある。糖尿病患者は炎症になりやすいため、歯髄への炎症も波及しやすいとされている。実際に、1型糖尿病に関する高いう蝕有病率は、エナメル質および象牙質表面の厚さの減少と唾液流料の減少によって引き起こされる可能性が指摘されている。歯髄にはもともと高い治癒能力があるため、歯科医師は可能な限り歯髄の保存に努めるが、糖尿病患者は全身循環障害による創傷部位への血液供給不足により創傷治癒が遅れてしまうため、歯髄保存が難しいとされている。

研究グループは今回、この原因を突き止めることができれば、糖尿病患者に適したむし歯治療が提供できるのではないか考え、研究を進めた。

1型糖尿病モデルラットで創傷治癒遅延を確認

まず、ストレプトゾトシンを決められた量、ラットの腹部に注射することで1型糖尿病のモデルラットを作製。糖尿病に罹患したラットに対して直接覆髄処置を行い、処置後7日目の髄の病態を観察した。野生型のラットでは直接覆髄後7日目で、創傷部直下において修復象牙質の形成を認めたことから、創傷治癒が完了していることを確認した。一方で、1型糖尿病モデルラットでは、大量の肉芽組織や壊死組織が観察され、修復象牙質の形成はあまり認められなかったという。

この知見は、修復象牙質を形成する能力に差があるためと仮定し、細胞分化とマトリックスの石灰化に関連するオステオポンチンと、修復象牙質を形成する象牙が細胞様細胞のマーカーである「Nestin」に対する特異的抗体を用いて免疫組織学的手法を行った。その結果、オステオポンチンは野生型ラットと1型糖尿病モデルラットの両方のグループの創傷部直下で発現していた。一方でNestinは、野生型ラットでは修復象牙質直下で認め、1型糖尿病モデルラットでは壊死層直下で陽性反応を認めた。以上より、病理組織学的差異から1型糖尿病モデルラットでは創傷治癒が遅延していることを突き止めた。

未熟な象牙芽細胞様細胞が多く、直接覆髄後の歯髄で治癒障害発生

研究グループはさらに、創傷治癒の遅延の原因について「1型糖尿病モデルラットでは歯髄幹細胞から象牙芽細胞様細胞への分化が遅れ、その結果、修復象牙質形成も遅延しているのではないか」との仮説を立てた。

そこで、歯髄幹細胞が直接覆髄後7日目で象牙芽細胞様細胞へ分化可能であるか否か確認するため、両グループ間のα-smooth muscle actin(α-SMA)陽性細胞の局在について免疫組織学的解析を行った。研究グループはこれまでにα-SMA陽性細胞は未熟な象牙芽細胞様細胞には局在するが、成熟すると消失することを報告している。その結果、1型糖尿病モデルラットでは、α-SMA陽性細胞が壊死層の下に局在しており、この陽性細胞数は野生型と比較して有意に増加していたという。

また、研究グループは以前にNestinが成熟した象牙芽細胞様細胞と未熟な象牙芽細胞様細胞の両方を歯髄創傷治癒の初期で発現してくることを報告している。そこで、同知見を元にα-SMA陽性細胞が未熟な象牙芽細胞様細胞なのか成熟したものなのかを解析するため、Nestinとα-SMAによる二重蛍光免疫染色法による局在解析を行った。その結果、野生型と1型糖尿病モデルラットともに二重陽性細胞が損傷部位の直下で観察された。しかし、1型糖尿病モデルラットでは野生型と比較して二重陽性細胞数が著明に増加していたことから、未熟な象牙芽細胞様細胞が多いことが明らかになった。以上のことから1型糖尿病モデルラットでは直接覆髄後の歯髄で治癒障害が起こっていることがわかった。

M2マクロファージ減、M1マクロファージ増で象牙芽細胞様細胞成熟阻害の可能性

次に、この治癒障害にマクロファージが関与していると仮定し研究を進めた。マクロファージは、炎症促進機能を有するM1マクロファージと治癒促進機能を有するM2マクロファージの間で周囲の環境に応じて変化する(分極する)、つまり、炎症初期ではM1マクロファージが多いが、炎症後期(修復期)ではM2マクロファージが多く存在していることがわかっている。

そこで、M1/M2マクロファージを同定するための免疫二重蛍光染色を行い、創傷治癒部で展開している各マクロファージの分極の割合を調査した。その結果、野生型と比較して1型糖尿病モデルラットではM1マクロファージが増加する一方で、M2マクロファージは減少していることを見出した。

これらの知見は「M2マクロファージが1型糖尿病モデルラットで減少していたため、治癒傾向ではないことを示唆」「M1マクロファージが存在し続けていることが象牙芽細胞様細胞への成熟を阻害している可能性」という2つのことを意味しているという。

2型糖尿病モデルでも調べる予定

糖尿病には1型だけでなく2型も存在しており、両方とも炎症が治まりにくいとされている。今回はモデル動物を用いた1型糖尿病のみの結果だが、2型糖尿病での病態がどのように変化しているのかを解析することにより、糖尿病時の病態情報がさらにわかるようになると考えられる。「今後は2型糖尿病モデルについても調査をしていく予定だ」と、研究グループは述べている。

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