肺腺がん発症の約半数は非喫煙者、罹患危険群の把握や発症予防は困難
国立がん研究センターは11月8日、日本人の肺腺がんの患者約1万7,000人と肺がんに罹患していない人約15万人の遺伝子の個人差を調べ、日本人における肺腺がんへのかかりやすさを決める遺伝子の個人差を19個同定したと発表した。この研究は、同センター研究所ゲノム生物学研究分野白石航也ユニット長、河野隆志分野長、愛知県がんセンターがん予防研究分野の松尾恵太郎分野長など、全国19施設からなる研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Communications」に掲載されている。
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肺がんはがん死因の一位であり、日本では年間に約7万6,000人、全世界では約180万人の死をもたらしている。肺がんの中でも最も発症頻度が高く、増加傾向にあるのが肺腺がんである。肺腺がんは、肺がんの危険因子である喫煙との関連が比較的弱く(相対危険度は約2倍)、約半数は非喫煙者での発症である。喫煙以外の危険因子が特定されていないことから、罹患危険群の把握や発症予防は容易ではない。特に、日本を含めたアジアの国では、EGFRという遺伝子の変異を原因として発生する肺腺がんが多いことが知られている。
日本人の肺腺がんへのかかりやすさに関連する19個の遺伝子の個人差を新規に同定
研究グループは、日本人の肺腺がん患者約1万7,000人と肺がんに罹患していない人約15万人について遺伝子多型を比較し、肺腺がんの患者が優先的に持つ遺伝子の個人差を同定した。肺腺がん患者964人の末梢血DNAの全ゲノムシークエンス解析を行い、遺伝子の個人差とテロメア配列の長さとの関係を調べた。
その結果、19個の遺伝子の個人差が日本人の肺腺がんへのかかりやすさと関係することがわかった。これらの遺伝子の個人差は、染色体DNAの末端に存在しゲノムの安定化に関わるテロメア配列の長さを調節するTERT、TERC、POT1遺伝子やヒトの体から異物を排除する免疫をつかさどるHLAクラスI/II遺伝子に存在していた。
EGFR遺伝子変異の肺腺がん、HLAクラスII遺伝子とTERT遺伝子に関連を発見
19個の遺伝子の個人差について、EGFR遺伝子に変異を持つ肺腺がんと持たない肺腺がんへのかかりやすさを決める遺伝子の個人差の強さを比較した。その結果、HLAクラスII遺伝子の4つの個人差とTERT遺伝子の個人差が、EGFR遺伝子に変異を持つ肺腺がんにより強く関わることが明らかになった。
例えば、TERT遺伝子の肺腺がんのかかりやすさを決める遺伝子の個人差をひとつ持つ人は、持たない人と比べて1.43倍EGFR遺伝子の変異を持つ肺腺がんへのかかりやすさが高まり、ふたつ持つ人は持たない人と比べて2.04(1.43×1.43)倍高まる。一方、EGFR遺伝子変異陰性の肺腺がんの場合は、それぞれ1.25倍、1.56倍となる。
TERT、TERC、POT1遺伝子の個人差はテロメアの長さと関連
テロメア配列の長さを調節するTERT、TERC、POT1遺伝子の個人差とその人の持つテロメアの長さとの関係を調べた。その結果、肺腺がんへのかかりやすさを決める遺伝子の個人差を持つ人は持たない人に比べてテロメアが長い傾向にあることがわかった。テロメアの長さは細胞の寿命やゲノムの安定性と関係することが知られている。今回同定されたTERT、TERC、POT1遺伝子の個人差を持つ人は、より長いテロメア配列を持つことで肺の細胞ががん化する可能性を示唆している。
今後、人種横断的なゲノム解析に参画して人種差についての検討も行う予定
大規模なゲノム解析を行うことで日本人やアジア人に特有の肺腺がんへのかかりやすさのメカニズムがわかってきた。今回の研究成果を基に、非喫煙者の肺腺がんの予防や早期発見の手掛かりとなることが期待される。
「2012年より開始したゲノム解析により、5個の肺腺がんのかかりやすさに関わる遺伝子の個人差を同定し、2016年には6個、今年に入り19〜29個を同定してきた。今後は国際コンソーシアムとの連携を通じて人種横断的なゲノム解析に参画し、人種による差についての検討も行う」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース