起因菌産生のマイコラクトン毒素の生物活性と宿主サイトカインの役割は?
東京医科歯科大学は11月2日、ブルーリ潰瘍起因菌が産生するマイコラクトン毒素の生物活性と宿主サイトカインの役割を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科細菌感染制御学分野の鈴木敏彦教授らと、国立感染症研究所ハンセン病研究センター、東京理科大学、ガーナ大学野口記念医学研究所の共同研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Pathogens」オンライン版に掲載されている。
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ブルーリ潰瘍(Buruli ulcer)は、「顧みられない熱帯感染症(Neglected Tropical Diseases)」の1つとして世界保健機関(WHO)が重点的に疾病対策を展開している細菌感染症だ。ガーナをはじめとした西アフリカ諸国、近年はオーストラリアで流行する同疾患の起因菌は抗酸菌の一種Mycobacterium ulcerans。日本においても1980年代に初めて患者が報告されて以来、症例が増えている。国内での起因菌としてM. ulcerans subsp.(亜種)shinshuenseが同定されている。本菌は、主に水系環境が原因でヒト皮膚に感染すると考えられているが、自然界におけるリザーバーの有無、感染伝播の様式、感染によって生じる皮膚潰瘍の病態機序は明らかになっていない。
研究グループは、ガーナ大学野口医学研究所と共同でガーナの流行地域での現地調査を実施し、自然界における本菌の生活環を探索している。一方で、病原因子として宿主のSec61に依存するタンパク質分泌経路を阻害する活性をもつマイコラクトンが知られている。しかし、炎症性サイトカインであるIL-1βおよびIL-18はSec61とは別経路で分泌されることから、感染に伴って誘導・分泌されると考えられていた。そこで今回の研究では、各種遺伝子欠損マウスを用いて、本菌によるサイトカイン産生機構と病態における役割を解析した。
マイコラクトン作用により、IL-18以外のサイトカイン産生を阻害
研究の結果、M. ulceransの亜種shishuenseを感染させたマクロファージにおいて、IL-1βをはじめとするサイトカイン誘導は、マイコラクトンにより転写レベルで抑制されることが初めて明らかになった。一方で、菌が感染するとマイコラクトンとは無関係に細胞死が誘導され、それに伴ってインフラマゾームとカスパーゼ-1の活性化が誘導される。興味深いことに、もともと定常的に産生されているIL-18は活性化したカスパーゼ-1により切断され、生物学的に活性のある成熟IL-18が分泌された。
IL-18が潰瘍進行抑制、IL-1βが皮菌増殖抑制
次に、ブルーリ潰瘍の発症におけるこれらのサイトカインの役割を調べるため、IL-18およびIL-1β欠損マウスを用いた皮膚潰瘍モデルを構築した。その結果、IL-18欠損マウスで皮膚潰瘍の増悪化を示した。このことから、IL-18は潰瘍の進行を抑制することが明らかになった。
一方、IL-1β欠損マウスでは皮膚組織における菌の増殖促進を認めた。このことから、IL-1βは感染した菌の組織内増殖を抑制する働きを有することが判明。マクロファージを用いた試験管内感染実験ではIL-1βの産生は阻害されていたものの、実際の感染の場ではIL-1βによる増殖抑制効果があると考えられる。
ブルーリ潰瘍発症病理におけるサイトカイン誘導機構と機能で新たな知見
今回の研究成果は、ブルーリ潰瘍の発症病理におけるサイトカインの誘導機構と機能に関する新たな知見をもたらし、疾患発症のメカニズム解明に重要な情報となった。また、同大が設置するガーナ拠点における感染症研究の1つとして、野口記念医学研究所との共同研究の推進に貢献した。
一般的に、インフラマゾームを介したカスパーゼ-1の活性化はIL-1βとIL-18両方を活性化することが知られており、これまで病原体感染においてこれらのサイトカインの活性化は同時に誘導されると考えられていた。今回の研究で明らかになった、M. ulceransの感染に伴ってIL-18のみが選択的に産生される事例は前例がなく、病原体と宿主免疫との攻防を明らかにしていく上で重要な発見と言える、と研究グループは述べている。
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