増加傾向とされる頭頸部がん、年齢構造を調整した死亡率などの詳細な情報は少ない
岡山大学は9月29日、これまで十分に明らかにされていなかった日本における頭頸部がんの死亡率の傾向を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科医薬品臨床評価学分野博士課程2年生の東恩納司氏、学術研究院医歯薬学域医療教育センター薬学教育部門健康情報科学分野の小山敏広准教授、同大病院薬剤部の濱野裕章講師、座間味義人教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancers」にオンライン掲載されている。
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頭頸部がんは、世界で6番目に多いタイプの悪性腫瘍である。頭頸部がんは機能的な呼吸、摂食、会話、味覚、聴覚障害を引き起こし、生活の質を著しく低下させることが知られている。世界では、2016年に410万人の頭頸部がんの有病者が報告され、2020年には100万人の新規患者が報告され、約500万人が死亡している。さらに、頭頸部がんは2030年までに年間70万人以上の死亡と最大5350億ドルの経済的損失をもたらすと推定されている。頭頸部がんの罹患率は比較的低いままだが(全がんの約5%)、患者数と死者数は最近増加傾向にある。
日本では、頭頸部がんの大部分を占める口腔がんの罹患率が増加している。さらに、頭頸部がんの罹患率は男女ともに増加し続けると推定されている。従って、疾病負担を軽減するために集中的な対策が必要である。過去数十年にわたる治療法の著しい発展にもかかわらず、年齢調整死亡率(年齢構造の変化の影響を除いた人口当たりの死亡率)の年次推移を統計的に評価した研究は多くない。
これまで日本における頭頸部がんの部位罹患率を評価した疫学研究はあるが、粗死亡率(人口当たりの死亡率)および年齢調整死亡率の経時的変化については十分に調査されていない。頭頸部がんの治療戦略やスクリーニングなどの政策を検討するためには、がん罹患率の知見だけでは不十分である。粗死亡率と年齢調整死亡率を用いてがん死亡率の経年変化を調べることは、治療法の有効性を評価し、将来のがん治療や予防に必要な資源の配分を計画するのに役立つ。そこで今回の研究では、日本における頭頸部がんの年齢調整死亡率の経時的変化を明らかにし、今後の医療政策の基礎的エビデンスとすることを目的に実施した。
21年間の国内死亡率は年々増加傾向、男性は女性の約3倍
研究グループは、1999年から2019年の21年間における日本国内の頭頸部がんによる死亡率の変化率について解析を行った。その結果、日本国内の頭頸部がんによる死亡率は年々増加傾向であり、特に男性は女性のおよそ3倍であることが明らかとなった。
年齢調整死亡率ではむしろ男女ともに減少傾向と判明
また10万人あたりの年齢調整死亡率について解析したところ、男女ともに減少傾向であり、男性では8.20から7.21に、女性では1.96から1.71まで減少していた。特に男性では、2014年から2019年にかけて年齢調整死亡率が急激に低下していることが明らかとなった。今回の結果の要因の一つとして、2012年に保険適応となった分子治療薬の寄与などが考えられる。
年齢別の粗死亡率は45~54歳で最も低下
また、年齢別に粗死亡率の傾向について検討したところ、35歳から74歳までの各年齢グループで粗死亡率の低下が観察され、特に45~54歳のグループにおいて最も粗死亡率が低下していることが明らかとなった。一般に、高齢者はがん化学療法に対する忍容性が低いことを考えると、今回の研究結果の年齢ごとの粗死亡率の低下は妥当な結果であると考えられる。その他、年齢調整死亡率が低下した理由として、頭頸部がんのリスク因子の一つである喫煙率の経年的な減少、予防検診としての歯科受診率の増加による頭頸部がんの早期発見などの可能性が考えられる。
今後の医療政策に関わる基礎的な知見となり得る成果
研究成果から、日本における頭頸部がんの死亡率の経年変化が明らかとなった。肺がんなどの5大がんと比較すると、頭頸部がんは早期発見を目的とした歯科検診などが積極的に実施されていない。頭頸部がんの一部はヒトパピローマウイルスがリスク因子であることが知られており、ワクチン接種など予防的プログラムにも有益な情報の一つであると考えている。「頭頸部がんの死亡率の経年変化を知ることで、今後のスクリーニングなどの医療政策に関わる基礎的な科学的知見となり得るものと考える」と、研究グループは述べている。
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