下剤として使用されている「エロビキシバット」に腫瘍抑制効果はあるのか?
名古屋大学は9月21日、胆汁酸の再吸収を抑制する「エロビキシバット」が、非アルコール性脂肪肝炎(Nonalcoholic teatohepatitis:NASH)マウスモデルから生じる肝腫瘍の発生率を低下させることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器内科学の杉山由晃大学院生、山本健太病院助教、本多隆講師、川嶋啓揮教授、金城学院大学生活環境学部食環境栄養学科の浅野友美講師、名古屋大学医学系研究科・腫瘍病理学の榎本篤教授、近畿大学生物理工学部生命情報工学科の財津桂教授、東京大学大学院医学系研究科消化器内科学の藤城光弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology International」にオンライン掲載されている。
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お酒をあまり飲んでいないのに肝臓に脂肪が溜まってしまう非アルコール性の脂肪肝がある。このうちの数パーセントの患者は、脂肪が溜まるだけでなく肝臓の炎症や線維化が生じる。炎症や線維化を伴う脂肪肝は「NASH」と表現され、その患者の一部ではがんが生じるが、現在の医学ではこれらを未然に防ぐ方法はない。これは、脂質代謝異常、腸内細菌叢、胆汁酸、酸化ストレスなど、がんが発生する機序は非常に複雑で、どの因子が最も重要な要素か判明していないためだ。
研究グループは、その中でも脂肪が多い食事を与えられたマウスでは脂肪肝が出現し、肝臓内の胆汁酸が増加することが腫瘍の発生と関連するという今までの報告に注目した。さらに、腸内細菌を抑制する抗生剤などを使用すると腫瘍の発生率が低下する報告も参考にした。そして今回、普段は下剤として使用されており、腫瘍との関連があまり報告されていない「エロビキシバット(胆汁酸再吸収抑制薬)」が腸内の胆汁酸再吸収を抑制することによって、腫瘍の抑制に効果があるのかを評価した。
エロビキシバット群のマウスの腫瘍発生率が半分以下に抑制
まず、ジエチルニトロソアミンを生後3週間目のマウスに投与し、8~28週までの20週間コリン欠乏高脂肪食を投与することでNASHから腫瘍が発生するマウスモデルを作成した。エロビキシバット群では、マウスモデルに8~28週の間に同薬剤を混ぜたコリン欠乏高脂肪食を投与して肝腫瘍の発生率を比較した。
その結果、2群では体重や肝組織の線維化に差がなかったにも関わらず、エロビキシバット群で腫瘍の発生率が半分以下に抑制された。血液中の総胆汁酸濃度も低下しており、肝臓内ではコール酸やグリココール酸、タウロコール酸などの主要な胆汁酸の割合が顕著に低下していた。
エロビキシバット群でグラム陽性菌の割合低下、細菌叢の変化が腫瘍発生抑制に関連
また、腸内細菌はグラム陽性菌の割合が顕著に低下していた。胆汁酸は昔からグラム陽性菌の発育抑制に効果があることが報告されており、同薬剤により再吸収が抑制され、血清・肝臓内の胆汁酸が低下して大腸内の胆汁酸が増加したことが示された。
この細菌叢の変化は、腫瘍発生抑制効果がある薬剤バンコマイシンによる変化と似た傾向を示しており、細菌叢の変化が腫瘍発生抑制にも関連していた可能性があるとしている。
胆汁酸抑制で腫瘍を抑制する機序の発見は、新薬開発に重要な知見
今回の研究により、胆汁酸を抑制する薬を用いることで腫瘍の発生率を下げることができる可能性が初めて示された。「ヒトとマウスでは胆汁酸の種類も腸内細菌も異なるが、肝臓内に吸収される胆汁酸を抑制することで腫瘍ができる可能性を下げる機序の発見は重要であり、現在有効な治療のない発がん抑制のための新薬開発に重要な知見を与えた」と、研究グループは述べている。
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