免疫を抑える治療を行うIBD、COVID-19罹患/重症化しやすい可能性が危惧されていた
札幌医科大学は9月14日、炎症性腸疾患(IBD)患者における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化因子が、BMI高値(肥満)と脳血管疾患の既往歴であること、また、IBDに対する抗TNFα抗体またはチオプリンの使用は、COVID-19の重症化リスクが少ないことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部消化器内科学講座の仲瀬裕志教授を代表とする研究グループ(日本人炎症性腸疾患患者におけるCOVID-19感染者の多施設共同レジストリ研究グループ:J-COSMOS group)によるもの。研究成果は、「Gastro Hep Advances」オンライン版に掲載されている。
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IBDは腸に慢性的な炎症を繰り返す疾患で、潰瘍性大腸炎とクローン病の2つの特定難病に大別される。日本での患者数は増加しており、2020年に約22万人が罹患していると推定されている。また、IBD患者は免疫を抑える治療薬を常用することが多いため、COVID-19に罹患しやすい可能性や、重症化しやすい可能性が危惧されていた。
同研究は、日本人のIBD患者がCOVID-19を発症した際の臨床的特徴を把握し、今後の診断や治療介入に生かすために計画されたもので、2020年6月~2022年12月までにレジストリに登録された患者を対象に実施された。
COVID-19に罹患した日本人IBD患者1,308人を対象に解析
参加登録された医療機関に通院中または入院したIBD患者で、かつCOVID-19に罹患した人を対象に、IBDの活動性・IBDの治療薬・COVID-19の重症度などを調査した。
前回の中間解析(2021年10月31日)から最終解析(2022年12月31日)までに登録患者は1,121人増加し(6.1倍)、最終的に1,308人の患者の解析を行った。同時期の日本人のCOVID-19発症件数は14.4倍に増加していることから、IBD患者が自身の免疫が弱いことを自覚し、感染予防を徹底していることへの表れと考えられた。
重症化1.6%、死亡者無し、発症後のIBD悪化「少」
登録患者のうちCOVID-19が重症化した患者は1.6%で(WHO重症度分類)、残りの98.4%は非重症型だった(厚生労働省の定義する重症度分類における中等症Ⅱと重症は、どちらもWHO重症度分類の重症に相当)。登録した患者でCOVID-19による死亡者はいなかった。
また、COVID-19の発症によって「IBDの病状が悪化することは少ない」「一時的にIBDが悪化する場合もCOVID-19の治癒後に元のIBDの病状まで改善することが多い」ことが判明した。
重症化因子は肥満/脳血管疾患既往歴、免疫抑制治療薬使用による重症化リスク「少」
統計学的解析により、高BMI(肥満)、脳血管疾患の既往歴があることがIBD患者におけるCOVID-19の独立した重症化因子であること、IBDに対する抗TNFα抗体またはチオプリンの使用はCOVID-19の重症化リスクが少ないことがわかった。
中間解析で重症化リスク候補となったステロイド、最終的には有意差無し
今回の研究により、肥満と脳血管疾患の既往歴がCOVID-19を悪化させるリスクであることが明らかになった。また、中間解析では統計学的にCOVID-19重症化リスクと考えられていたステロイド投与は、最終解析では有意差を示さなかったとしている。一方、ステロイド以外のIBDにおける免疫抑制治療薬(チオプリン製剤、抗TNF-α抗体製剤)は、むしろCOVID-19を重症化させるリスクが少ないことが判明した。
「COVID-19に関する社会的な制限は緩和されたが、COVID-19の流行や新たな変異ウイルスの発生といったCOVID-19に関する医学的・公衆衛生的な問題はいまだ続いている。Withコロナ、Postコロナ時代におけるIBD診療(検査や治療)のあり方について、当講座ではさらなる研究を続けている」と、研究グループは述べている。
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