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日本人に多い「末端黒子型」悪性黒色腫、活性型Aktが再発に関連-東京医歯大ほか

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2023年09月14日 AM11:40

難治性の「手や足の裏のホクロのがん」、治療標的となりうる遺伝子の情報は少ない

東京医科歯科大学は9月13日、活性型Aktの発現が末端黒子型悪性黒色腫の再発に強く関与することをつきとめたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の並木剛准教授、野嶋浩平大学院生、沖山奈緒子教授、形成・再建外科学分野の森弘樹教授、顎顔面外科学分野の佐々木好幸准教授、、国立がん研究センター中央病院らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pigment Cell & Melanoma Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

悪性黒色腫はがんの中でも薬物療法の効果が極めて低い難治性のがんとして良く知られている。国内で発症する悪性黒色腫の約半数以上は、いわゆる「手や足の裏のホクロのがん」と言われる手掌・足底に生じる末端黒子型悪性黒色腫であり、悪性黒色腫の各病型の中でも予後が悪く、近年に開発の進んでいる免疫チェックポイント阻害剤の効果も低いことがわかっている。悪性黒色腫では病型ごとの遺伝子異常の頻度が異なっており、治療の標的とできる遺伝子異常やシグナル伝達経路も異なるため、末端黒子型悪性黒色腫において治療の標的とできる遺伝子異常を特定し新規治療法の開発を進めることは日本における悪性黒色腫患者の生命予後を改善させるために極めて重要である。

国際がんゲノムコンソーシアムの主導で行われた、がん種横断的な全ゲノム解析プロジェクトは、2020年にその全容が明らかにされた。悪性黒色腫も多数例が解析されその中に末端黒子型も含まれておりCCND1遺伝子増幅を含めた特徴的ながんゲノム異常も明らかになっている。しかしながら現在までに、末端黒子型悪性黒色腫の再発に直接に関わる遺伝子について、多施設・多数例を用いた妥当性のある統計学的な解析は十分になされてこなかった。研究グループは、治療のターゲットとして有効になりうる遺伝子異常を特定するため研究を進めた。

Aktリン酸化とNUAK2の発現を、末端黒子型含む悪性黒色腫原発巣で解析

これまでに研究グループが行ったArray-comparative genomic hybridization(CGH)データおよび細胞実験・マウス実験によるデータから末端黒子型悪性黒色腫においてはPTEN欠失とNUAK2増幅の重要性が示唆されている。PTEN欠失が起きると細胞の増殖や生存に必須となるPI3K経路が活性化して下流に位置する遺伝子であるAktの活性化が起きることがすでにわかっている。また、NUAK2については細胞内代謝のセンサーとして働き細胞の増殖に作用することがわかっている。

まず、共同研究施設との連携にて末端黒子型悪性黒色腫112人を含む悪性黒色腫原発巣を計168人から集積した。Aktの活性化はそのリン酸化にて検出することができるためAktのセリン473番のリン酸化(phospho- at serine 473;p-)に対するモノクローナル抗体を用いて免疫染色を施行した。NUAK2に対しては研究グループが独自に作製したモノクローナル抗体を使用することで免疫染色を施行した。

p-AktとNUAK2の発現、末端黒子型だけで予後と関連

免疫染色の結果を0から+3までの4段階(0:0-10%の細胞で陽性、+1:11-25%の細胞で陽性、+2:26-50%の細胞で陽性、+3:51-100%の細胞で陽性)で評価し、陽性・陰性の2段階で評価する場合には+1から+3を陽性とし0のみを陰性とした。悪性黒色腫原発巣全体ではp-Aktが42.9%で陽性、NUAK2が53.6%で陽性、末端黒子型ではp-Aktが32.1%で陽性、NUAK2が46.4%で陽性だった。さらに、各臨床パラメータとの相関を統計学的に解析したところ、生命予後と強い相関がわかっている原発巣の厚さとの相関において末端黒子型のみp-AktおよびNUAK2ともにP<0.0001と強い相関が認められたが、末端黒子型以外の病型においては相関が全く認められなかった。このことより、p-AktとNUAK2の発現は末端黒子型のみで生命予後に影響を与えていることを想定し、再発(無病再発期間)と生存(全生存期間)との相関につきカプランマイヤー法を用いて単変量において検討した。その結果、末端黒子型においてのみp-AktおよびNUAK2ともに発現と予後増悪(再発)が相関することが示された。

コックス比例ハザードモデルによる多変量解析、p-Aktは再発ハザード比4以上

次に、イベント数(再発)が限定的なため因子分析にて変数を減らした上にて多変量解析を行った。まず、バリマックス回転法を用いた探索的因子分析にて性別・年齢・腫瘍の厚さ・潰瘍の有無・病期・Low-CSDメラノーマの6つの臨床パラメータを解析。因子1は性別・年齢・腫瘍の厚さ・潰瘍の有無・病期の5つのパラメータを、因子2はLow-CSDメラノーマのパラメータを代表としたことで累積寄与率が40.1%と最大となった。この因子1および因子2を用いたコックス比例ハザードモデルによる多変量解析にて再発および生存につき解析を行ったところ、再発のみにおいて悪性黒色腫原発巣全体ではp-Aktでハザード比4.454(P<0.0001)となり、末端黒子型のみに限ってもp-Aktでハザード比4.036(P=0.0005)となり、末端黒子型においてp-Aktが再発に強く関与することが示された。

さらに、p-Aktのバイオマーカーとしての意義を検証するために多変量ロジステック解析を施行しコックス比例ハザードモデルの妥当性を検証したところAUC(Area Under the ROC Curve)値が2年後・3年後・4年後のそれぞれにおいて0.91、0.92、0.93となり、p-Aktの末端黒子型の再発に対するバイオマーカーとしての妥当性が示された。

活性型Akt、バイオマーカーとして用いることで層別化も可能

悪性黒色腫の1病型としての末端黒子型が提示され概念が構築されてからすでに50年近く経過しているにも関わらず、その劣悪な予後を規定する遺伝子の存在については十分には明らかにされてこなかった。今回の研究において悪性黒色腫の中でも末端黒子型の再発に強く関与する遺伝子が明らかになったことで、「発症母地となる細胞(起始細胞)とニッチ内の周囲の細胞や組織構築とのクロストークはどのようになっているのか」「何故手や足の裏に生じてくる悪性黒色腫は悪いのか」など、末端黒子型悪性黒色腫の発症・増悪の病態メカニズムに関する重要な問いに対して活性型Aktを端緒とすることでさらに解明を進めることが可能となる。また、活性型Aktをバイオマーカーとして用いることで末端黒子型悪性黒色腫を層別化することが可能となり、再発の抑制を目的とするAktをターゲットとした新規術後療法の開発を進めるにおいてより適切な臨床研究のデザインが可能になる。

「本研究結果は今後、国内で発症が多い末端黒子型悪性黒色腫に対する分子標的治療を用いた治療の標準化へ大きく道を切り開くものと考えられる」と、研究グループは述べている。

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