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がん患者の痛みや不安、目に見えない症状を機械学習で評価する手法開発-京大

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2023年08月31日 AM11:02

予測や判別に優れる機械学習、緩和ケアのための症状評価に活用可能か?

京都大学は8月29日、機械学習を用いて、がん患者の苦痛のうち、痛みや呼吸困難などの自覚症状を評価する方法を開発したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院緩和医療科・緩和ケアセンターの恒藤暁教授、嶋田和貴特定講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本では、主にがん医療に焦点を当てた政策の一環として緩和ケアが発展してきた。がん治療の発展と共にがん患者の平均余命が延長し、がん患者への緩和ケアの主な提供者は、緩和ケアを専門としない一般の医療従事者に移行しつつある。一般の医療従事者向けの緩和ケア研修会は全国で行われているが、短期間の研修は医療現場のニーズに十分対応することができない。緩和ケアでは多くの場合、患者本人にしかわからない自覚症状の評価から始まるため、適切な症状評価に一定の時間を必要とする。しかし、一般診療では、緩和ケア以外の幅広い業務も行わなければならないため、詳細な評価を行う時間が十分に確保できないことがある。さらに、一般診療のなかで緩和ケアを行おうとする際に生じる慌ただしさで、診療の質を上げるための緩和ケアが逆に診療の質を低下させる可能性すらある。一般の医療従事者を支援する緩和ケア専門職の全国的な人手不足も慢性的に続いている。

一方で、予測や判別に優れた機械学習を診療支援に応用する試みが世界的な潮流になりつつある。そこで、機械学習をがん患者の症状評価に活用することができれば、スマートフォンやタブレット端末などを介したアプリケーション形式で一般の医療従事者を支援し、最終的には全国のがん患者の利益につながると考えられる。

患者背景と目に見える症状からモデル作成、見えない症状を高精度に予測

そこで研究グループは、2015年8月から2016年8月にかけて自ら診療したがん患者213人の診療情報を対象とした後方視的研究を実施した。一般の医療従事者、特に若手の医師や看護師、介護士に最終的なアプリケーションを使ってもらうことを当初から想定し、誰でも観察で評価できる他覚症状を機械学習の入力系にすることを試みた。そこで、症状のうち観察で評価できる客観的要素の多い症状を「目に見える症状」として抽出した。残りの主観的要素の多い症状を「目に見えない症状」とした。次に、患者背景と「目に見える症状」から「目に見えない症状」を予測する系を作成した。この「目に見える症状」と「目に見えない症状」の分類がこの研究の最大のポイントで、機械学習としてはポピュラーな手法のひとつである決定木分析で「目に見えない症状」:、呼吸困難、疲労、眠気、不安、せん妄、不十分なインフォームド・コンセント、スピリチュアルな問題を予測したところ、精度、感度、特異度の最高値/最低値は、88.0%/55.5%、84.9%/3.3%、96.7%/24.1%だった。

より良い評価を介してがん患者のQOL改善に寄与し得る成果

この研究は、緩和ケアを受けているがん患者を対象に、決定木分析を用いて目に見えない症状を予測した最初の研究である。研究結果にもとづくアプリケーションは、一般の医療従事者と同程度に症状評価ができる可能性も示すことができた。研究の成果は、がん患者における症状のより良い評価を介してQOLの改善に寄与し得るものである。

一方、今回の研究には、1)成人のがん患者のみを対象としているため、研究結果は小児では妥当でない可能性、2)研究に含まれた外来患者数が少ないこと、3)作成した機械学習モデルは将来に発生する症状イベントは正確に予測できない可能性、といった限界が考えられるため、これらについてはさらなる研究が必要である。

「集積した臨床情報には症状だけでなく、治療・ケアや転帰の情報も含まれており、機械学習を用いた治療・ケアの提案や、転帰の予測に関する研究も進めている。臨床情報の集積形式は国内における緩和ケアチームの活動内容を一般化したものであり、その内容を機械学習上で再現できれば、全国で一般的に行われている緩和ケアチームをアプリケーションで再現できる可能性がある。端的な人手不足の解決だけでなく、地域での医療偏在や災害下での医療の継続性にも寄与できる可能性がある。なお、機械学習アプリケーションの社会実装では避けらない議論として、アプリケーションを用いた場合の医学的判断の責任の所在に関する倫理的・法的・社会的な議論や、アプリケーションを維持するためのコスト面の議論も必要と考えられる」と、研究グループは述べている。

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