EGFR阻害薬耐性、一時抑制されたYAPが再活性化されるメカニズムは不明
広島大学は8月23日、細胞膜表面のタンパク質であるAXLとEGFRが二量体を形成し、下流のがん遺伝子であるYAPを活性化させることで、がん細胞の増殖およびEGFR阻害薬への耐性を付与する新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大病院口腔検査センターの安藤俊範助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Oncogene」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
がんは国民の死因第1位の疾患である。2人に1人はがんになる時代であり、がん治療の発展が望まれている。近年では、がんの遺伝子異常を同定することでシグナル経路の活性化を予測し、効果的な薬剤を選択する治療が行われている。
口腔・頭頸部および肺がんでは、特にEGFRの遺伝子異常が標的となっている。EGFRは細胞膜表面に存在し、複数のシグナル経路を活性化させて増殖を促す。EGFRは口腔・頭頸部がんでは高発現しており、抗EGFR抗体が治療薬として使われている。しかし単剤による効果は予想外に低く、耐性・再発が問題となっている。また肺がん(特に亜型である肺腺がん)ではEGFRの遺伝子変異(日本人では約50%)が生じており、EGFRの活性化を防ぐ阻害薬が使用されている。治療効果は比較的高いが、やはり薬剤耐性が問題となっている。耐性・再発を防ぐためにさまざまな分子標的薬との組み合わせも試みられているが、より効果的な治療法の開発が求められている。したがって口腔・頭頸部および肺がんのいずれも、EGFR阻害薬に対する耐性メカニズムの解明が望まれている。
研究グループはこれまでに、EGFRがHippoシグナル経路の下流因子であるYAPを活性化し、口腔・頭頸部および肺がんの増殖を促すメカニズムを明らかにしていた。一方で、EGFR阻害薬に耐性を示す症例ではYAPの活性化が報告されている。したがってEGFR阻害薬は確かにYAPを一時的に抑制するが、YAPを再び活性化する未知のメカニズムが存在する可能性が示唆されていた。
EGFR以外の受容体型チロシンキナーゼを検討、AXLを同定
そこで今回、研究グループはYAP活性化を導く未知のメカニズムを解明することで、EGFR阻害薬の耐性を防ぎ、がんの治療効果を大きく向上させることが可能になると考えた。EGFR阻害薬に耐性を示す症例では、EGFR以外の受容体型チロシンキナーゼの過剰発現も報告されている。そのため研究グループは、EGFR以外の受容体型チロシンキナーゼの過剰発現がYAPの再活性化をもたらしているのではないかと考えた。
まず研究グループは、がん細胞株と組織の遺伝子発現データベースを用いて、YAPの活性化に最も重要な受容体型チロシンキナーゼを解析して、AXLを同定した。AXLを高発現するがん細胞株に既存のAXL阻害薬(AXLの活性を阻害する低分子化合物)を投与すると、YAPが不活性化されて、細胞の増殖が抑制されることを見出した。
AXLはEGFRと二量体を形成してYAPを活性化していると判明
さらに、AXLがEGFRと二量体を形成することで、EGFRとHippo経路を介してYAPを活性化するメカニズムを明らかにした。そこでAXLを高発現するがん細胞株に対して、EGFR阻害薬とAXL阻害薬を併用すると、それぞれの単剤に比べて、相乗的にYAPを不活性化して増殖を抑制することを見出した。YAPを恒常的に活性化させると、この相乗的なYAPの不活性化と増殖の抑制は消失した。つまり、AXLを高発現するがん細胞の場合は、EGFR阻害薬だけでは十分にYAPを不活性化できておらず、AXL阻害薬を併用することで初めてYAPを完全に不活性化できることが明らかになった。
新たな治療の開発や創薬につながる成果
今回の研究により、AXLがYAPを活性化させる新たな上流因子であること、そしてEGFRとYAPの活性化を介してEGFR阻害薬への耐性を付与する新しいメカニズムが明らかになった。「今後、AXLの高発現を確認あるいは予測した上で、EGFR阻害薬にAXL阻害薬、あるいはYAPそのものを標的とする薬剤を併用することで、EGFR阻害薬の耐性を防ぐ新たな治療戦略の開発が期待される。同時に、新たなAXL阻害薬やYAP阻害薬の創薬開発が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・広島大学 研究成果