神経セロイドリポフスチン症で活性化するミクログリアやアストロサイト、異常の詳細は不明
順天堂大学は8月21日、最新技術である免疫高精度光線-電子相関顕微鏡法を用いて神経セロイドリポフスチン症(バッテン病)モデルマウスにおける、神経変性発症時の神経細胞の脱落、それに伴い活性化するミクログリア、アストロサイトの超微形態変化を捉えることに成功し、これまでに明らかにされてこなかったミクログリアに取り込まれたTUNEL陽性の構造体やリソソーム内の異常蓄積物、アストロサイトにみられるp62陽性構造体を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センターの内山安男特任教授、谷田以誠先任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Glia」にオンライン掲載されている。
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脳組織は神経細胞による複雑なネットワークとグリア細胞による神経細胞の維持や機能発現・代謝支援により、その機能を発揮している。神経変性疾患においては神経細胞の死や脱落がおこるとともに、グリア細胞であるミクログリアやアストロサイトが活性化する。通常、ミクログリアは変性した神経細胞のクリアランスを行い、アストロサイトは脱落した神経細胞領域の組織を支持すると言われている。神経変性疾患を引き起こす神経セロイドリポフスチン症モデルマウスは、オートファジー・リソソーム分解系に関わるカテプシンDが欠損しており、神経セロイドリポフスチン症患者と同様の表現型を示す世界で唯一のモデルマウスである。このマウスでは、神経細胞の脱落とともに活性化したミクログリアやアストロサイトが増加するが、その内でどのような変化・異常が起こっているのかは良くわかっていなかった。
免疫高精度光線-電子相関顕微鏡法でモデルマウスの活性化ミクログリア・アストロサイト超微形態変化を解析
研究グループは、これまで神経セロイドリポフスチン症モデルマウスを用いて、神経変性疾患におけるオートファジー・リソソーム分解系の影響を解析してきた。このモデルマウスの中枢神経組織には自家蛍光を発するセロイドリポフスチンが蓄積しており、変性した神経細胞においてGROD(granular osmiophilic deposits)と呼ばれる異常なリソソームやオートファジー小胞の蓄積が認められる。このマウス脳の視床では生後24日で、神経細胞の数が約半分に減少するとともに、活性化ミクログリアは約2.5倍、活性化アストロサイトは約4.6倍に増加していた。
そこで、研究グループは、最近開発した免疫高精度光線-電子相関顕微鏡法を用いて、このマウス視床における活性化ミクログリア・アストロサイトの超微形態変化を解析した。従来の解析法である蛍光顕微鏡解析では、脳組織におけるそれぞれの細胞の位置や増減は観察できるが、細胞内の超微形態変化を捉えることは困難である。また、電子顕微鏡解析では、局所的な微細構造は捉えられるが、複雑なネットワークを形成する脳組織においてグリア細胞全体を捉えることは困難である。免疫高精度光線-電子相関顕微鏡法は、蛍光顕微鏡の高い位置精度と電子顕微鏡の微細構造解析を兼ね備えた手法である。
活性化したミクログリア内にGRODやTUNEL陽性シグナルなどの異常を確認
まず、神経セロイドリポフスチン症患者脳において、電子顕微鏡解析で認められるGRODと呼ばれる異常なリソソームとミクログリアの関係について調べた。GRODはオートファジー・リソソーム分解系がうまく機能できない変性した神経細胞の細胞体に認められる。そして変性した神経細胞はミクログリアに貪食されると考えられている。ミクログリアは活性化すると伸展した突起を伸ばすが、ミクログリアの突起が変性した神経細胞体を取り囲み、ミクログリアの細胞体にGRODが取り込まれている様子が認められた。
また神経セロイドリポフスチン症モデルマウスでは、オートファジー・リソソーム分解系の異常により、オートファジーアダプタータンパク質、p62が蓄積している。このp62およびリソソームについて調べると、ミクログリアではリソソームは増加し、リソソーム内に異常なオートファジー空胞が蓄積していたが、p62凝集体はほとんど認められなかった。
神経セロイドリポフスチン症モデルマウス脳ではTUNEL陽性シグナルが認められ、一般には、TUNEL陽性シグナルは細胞死の一種、アポトーシスを検出すると考えられている。そこで、TUNEL陽性シグナルが、このマウス脳の神経細胞、ミクログリア、アストロサイトのうちのどの細胞で多く認められるかを調べたところ、TUNEL陽性シグナルは主にミクログリアに認められた。しかしながら、ミクログリア自体には、リソソームの異常はなく、活性化して増加しているため、アポトーシスを起こしているとは考えにくい状態である。変性した神経細胞がミクログリアのリソソームに取り込まれて、変性した神経細胞由来の核がTUNEL陽性になっている可能性がある。そこで、免疫高精度光線-電子相関顕微鏡法を用いて解析したところ、変性した神経細胞由来の核がミクログリアのリソソームに取り込まれ、核そのものではなく、核から断片化したDNAがTUNEL陽性になっていることがわかった。
アストロサイトではp62陽性のGROD類似構造などを認める
一方、アストロサイトでは、リソソーム、p62凝集体ともに増加しており、リソソーム膜に取り囲まれたGROD様構造体や、細胞質にp62陽性のGRODに類似した凝集体が認められた。
以上の結果から、神経セロイドリポフスチン症モデルマウスにおいては、神経細胞の変性に加えて、ミクログリアやアストロサイトにも異常が起こっていることがわかった。
神経細胞だけでなくグリア細胞にも異常を発見、解析技術は多くの疾患へ応用可能
今回、研究グループは免疫高精度光線-電子相関顕微鏡法を用いて神経変性疾患様表現型を示す神経セロイドリポフスチン症モデルマウスのグリア細胞について解析を行った。「神経変性研究では変性する神経細胞に注目しがちだが、今回の研究でグリア細胞でも異常が起こっていることがわかり、脳組織における神経変性研究の複雑さを痛感した。今後は、この解析技術を用いて神経変性以外の病態モデルマウスについても研究を行い、多くの疾患の病因解明への貢献が期待される」と、研究グループは述べている。
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