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造血幹細胞活性を制御する新規分子MBTD1を同定、メカニズムも解明-女子医大ほか

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2023年08月17日 AM11:28

造血幹細胞活性の制御機序は不明だった

東京女子医科大学は8月8日、造血幹細胞活性を制御する新規分子を同定したと発表した。この研究は、同大実験動物研究所の本田浩章教授(同研究所所長)らのグループ、国立国際医療研究センター研究所の田久保圭誉プロジェクト長らのグループ、シンガポール大学の須田年生教授らの研究グループ、椙山女学園大学の本山昇教授らの研究グループらの共同研究によるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

造血幹細胞は骨髄に存在し、自己複製を行うとともに赤血球、白血球、血小板などの系列の細胞に分化し、成体での造血を維持する。造血系においては、造血幹細胞は細胞の表面マーカーの組み合わせにより定義され単離することが可能で、単離された造血幹細胞は白血病や骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍に対する骨髄移植療法に使用されている。しかし、造血幹細胞活性がどの様な機序により維持されているかについては、これまでさまざまな研究が行われているが全体像は明らかにされていない。

胎生期の造血幹細胞活性に重要な分子MBTD1に着目、成体造血における機能を解析

研究グループは、マウスの造血幹細胞で同定された「/HEMP(mbt domain containing1/hematopoietic expressed mammalian polycomb)」という分子に注目した。同分子は、DNAに結合するC2C2ジンクフィンガーモチーフとメチル化されたヒストンに結合するMBT(malignant brain tumor)ドメインを4つ有しており、エピジェネティックな制御システム(DNAの配列変化によらず遺伝子発現を制御するシステム)により遺伝子発現を調節していると想定された。

研究グループは以前、先天性にMBTD1を欠失したマウスを作製し、MBTD1が胎生期の造血幹細胞活性に重要な役割を果たしていることを見出していた。しかし、このマウスはKlippel-Feil症候群に類似した骨形成不全で生後すぐに死亡するため、MBTD1の成体造血における機能は明らかにされていなかった。そこで研究グループは、この問題を解決する目的で後天性に誘導可能にMBTD1を欠失するマウスを作製し、造血系の解析を行った。

MBTD1欠失マウスの造血幹細胞、CDKIを介したFOXO3a発現低下により静止状態解除

その結果、MBTD1欠失マウス(以下、コンディショナルノックアウト(cKO)マウス)は正常マウス(以下、コントロール(Ctrl)マウス)に比較して、定常時では骨髄における長期骨髄幹細胞、短期骨髄幹細胞、多能性前駆細胞など造血幹細胞〜前駆細胞の割合が多く、5-Fluorouracil(5-FU)投与や骨髄移植などのストレス応答では造血幹細胞が異常な挙動(5-FU投与では過剰な増殖(16日)、骨髄移植では末梢血キメラ率の低下(1~4か月))を示すことが明らかになった。

その原因を検索する目的でCtrlマウスとcKOマウスから長期造血幹細胞を単離し網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、cKOマウスの造血幹細胞では、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子(cyclin-dependent kinase inhibitor:)を介して造血幹細胞を静止状態に留める転写因子であるFOXO3aの発現が低下しており、実際にその下流のCKDIであるp57とp21の発現低下も認められ、造血幹細胞が静止期に止まらず、過剰に細胞周期に突入していることが明らかとなった。また、クロマチン免疫沈降により、MBTD1はFOXO3a遺伝子のプロモーター領域に直接に結合していることも判明した。

FOXO3aレスキューで過剰な細胞周期から回復、骨髄移植後末梢血キメラ率回復は部分的

次に、cKOマウス造血幹細胞に認められた異常について、活性化型FOXO3aを導入することにより、その表現型が回復するかどうかについて検討を行った。この目的のために、誘導可能に活性化型FOXO3aであるFoxO3aTMを発現するFoxO3aTMマウスをcKOマウスに掛け合わせ、MBTD1欠失とFoxO3aTMの発現を同時に誘導し、造血系の解析を行った(以下、cKOマウスにFoxO3aTMマウスを掛け合わせたマウスをレスキュー(Rescue)マウスと呼ぶ)。

解析の結果、Rescueマウスの造血幹細胞では、cKOマウスの造血幹細胞で認められた造血幹細胞〜前駆細胞の増加やCDKIの発現低下による過剰な細胞周期突入は完全に回復したが、骨髄移植における末梢血キメラ率の低下は部分的にしか回復しなかった。

MBTD1と相互作用する新規分子を複数同定

造血幹細胞は、細胞周期のみならず、細胞内のエネルギー代謝によりその活性が調節されていることが示されている。そこで、長期造血幹細胞におけるATP濃度と造血幹細胞がおかれている低酸素状態で主にエネルギー代謝を司る解糖系の活性化の指標であるLDH活性を測定したところ、Ctrlマウスに比較してcKOマウスでは有意に低下していたが、これらはFoxO3aTMを導入したRescueマウスでは回復しないことが明らかとなった。

この原因を検索する目的で、造血幹前駆細胞の細胞株として用いられているEML細胞を用いて、MBTD1と結合する分子の同定を行った。その結果、これまでMBTD1と相互作用をするとして報告されているヒストンアセチル化を制御するTIP60複合体の分子であるEP400、EPC1、TRPPAP、MRGBP、RUVBL1、RUVBL2が同定され、それらに加えて新たにリボゾームタンパク質であるRPL17、RPL18、RPS19、ヒートショックタンパク質であるHSPA9、カルシウム結合タンパク質であるCalmodulin、およびmRNA結合タンパク質であるDDX6が同定された。RPL17、RPL18、RPS19、HSPA9、Calmodulinはこれまでに造血幹細胞を含めた幹細胞活性に重要であることが報告されており、MBTD1はこれらに加えてDDX6と相互作用することにより造血幹細胞の細胞内代謝を調節している可能性が示唆された。また結合分子として同定されたタンパク質は、TIP60複合体のみならず、Heat shock proteins、mRNA regulators、Ribosomal proteins、Calmodulinなどさまざまな機能体として相互作用をしていることが明らかとなった。

MBTD1の細胞周期調節+エネルギー代謝調節により造血幹細胞活性制御の可能性

MBTD1はFOXO3a-CDKI(p57, p21)の発現誘導を介した細胞周期調節と、おそらくTIP60複合体やその他のタンパク質との相互作用により、エネルギー代謝調節の両面を調節することにより、造血幹細胞活性を制御していると想定された。

造血幹細胞移植や再生医療への活用目指し、MBTD1の詳細解明目指す

今回作製された先天性および後天性にMBTD1を欠失したマウスにより、MBTD1は胎生期のみならず、成体でも造血幹細胞活性に重要であることが示された。さらに、成体ではFOXO3aを介した細胞周期とFOXO3aを介さないエネルギー代謝の両面を調節することにより、造血幹細胞活性を制御していることが明らかになった。FOXO3aは造血幹細胞を含めた幹細胞の細胞周期調節には非常に重要な分子であり、その発現を直接制御する分子が見つかったのは今回のMBTD1が初となる。

「今後は、MBTD1がどのような機序で目的遺伝子やタンパク質に結合し、その機能を発揮するのか、それらがこれまで示されている他の造血幹細胞維持機構と協調して、造血幹細胞活性を制御していくか、他の組織幹細胞においてMBTD1はどのような役割を担っているのかなどを明らかにすることが重要と考えられる。得られた知見は造血幹細胞移植や再生医療に役立つと想定される」と、研究グループは述べている。

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