スプライシング反応に重要なU6 snRNAの3′末端成熟プロセス、詳細な分子機構は不明
東京大学は8月10日、U6 snRNAがpre-mRNAスプライシングの反応サイクルへ参画するのに必要なU6 snRNAの3’末端の連続したウリジン(オリゴウリジン)配列が、ウリジン転移酵素(TUT1:Terminal uridyltransferase 1)によって合成・付加される分子機構を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻の山下征輔助教、富田耕造教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
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真核細胞において、pre-mRNAスプライシングはリボ核タンパク質(RNP:ribonucleoprotein)複合体であるスプライソソームによって行われる。主要なスプライソソームは5つのRNP複合体(U1、U2、U4、U5、U6 snRNP:small nuclear RNP)と数多くのタンパク質から構成される。U6 snRNPはU6 snRNA、p100、およびLsm2-8タンパク質を含み、U6 snRNAはスプライソソーム内でスプライシング反応を触媒する活性部位を形成する。
U6 snRNAは5′-ステム(5′-stem)、内在性ステム-ループ(internal stem-loop:ISL)、テレステム(telestem)から構成される特徴的な2次構造を持ち、5′-stemとISLの間にはAUAモチーフ配列が存在する。一次転写物の3′末端にはウリジン転移酵素、TUT1タンパク質によって、ウリジン三リン酸(UTP:uridine-triphosphate)を基質として複数のウリジンが付加される(オリゴウリジン化)。その後、3′-5′エキソヌクレアーゼであるMpn1タンパク質によって適切な長さにウリジン配列は切り詰められる。最終的に、成熟U6 snRNAの3′末端には2′、3′-環状リン酸(>p)を有する5個の連続したウリジン(オリゴウリジン:UUUUU>p)が存在する。
この3′末端の成熟プロセスにより、U6 snRNAの細胞内での安定性が向上する。U6 snRNAの3′末端の連続したオリゴウリジン配列はLsm2-8タンパク質複合体の結合部位であり、Lsm2-8タンパク質がU6 snRNAに結合することにより、pre-mRNAのスプライシング反応が促進される。これまで、U6 snRNAの3′末端へのオリゴウリジン配列付加の詳細な分子機構は明らかにされていなかった。
TUT1、AUAモチーフを認識し3′-末端を活性部位に引き寄せる
研究グループは、ヒト由来のTUT1タンパク質によるU6 snRNAの3′末端の特異的ウリジル化の分子基盤を明らかにするため、TUT1とU6 snRNAの複合体の三次元構造をX線結晶構造解析によって同定した。
U6 snRNAの5′-ステムと3′-テレステムの間の一本鎖部分のAUAモチーフは、複数のドメインから構成されるTUT1タンパク質のアミノ末端側のZF-RRMによって特異的に認識され、また、ZF-RRMと触媒ドメインを構成するPalm(パーム)ドメインによって抱えこまれている。その結果、U6 snRNAのテレステムの3′-末端が活性部位に引き寄せられることがわかった。さらに、U6 snRNAの変異体とTUT1タンパク質の変異体を用いた生化学的解析からも、TUT1がU6 snRNAの特異的な構造と配列を認識し、その3′末端をウリジル化することが確かめられた。また、生化学的解析から、U6 snRNAの3′末端にTUT1タンパク質によって付加されるウリジンの数は、U6 snRNAのテレステム中の4つのアデニンの連続配列(オリゴアデニン配列:AAAA)によって規定されていることがわかった。
テレステムのオリゴアデニン配列と完全に塩基対を形成するまでウリジン付加
TUT1タンパク質は、U6 snRNAの3′末端のウリジン配列がテレステムのオリゴアデニン配列と完全に塩基対を形成するまで、素早くウリジンを付加する。その結果、TUT1によって産生されるU6 snRNAは主に3′末端に6つのウリジン(UUUUUU)を持ち、その後、MpnIによって末端のUが削れ、5つの連続したウリジン(UUUUU>p)になることが明らかになった。このことは、U6 snRNAの内在配列がTUT1タンパク質によるU6 snRNAの3′末端のウリジル化反応を制御していることを示している。
pre-mRNAスプライシング異常に関連する疾患の理解につながる成果
U6 snRNAはpre-mRNAのスプライシングにおいて中心的な役割を果たしており、その成熟化プロセスの異常はpre-mRNAスプライシングの異常を引き起こす可能性がある。pre-mRNAのスプライシング異常に関連する疾患としては、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、網膜色素変性症などの重篤な疾患が報告されており、またU6 snRNAの成熟化プロセスの異常と常染色体潜性(劣性)皮膚疾患である多形皮膚委縮を伴う好中球減少症との関連も報告されている。「本研究の成果はU6 snRNAの成熟化プロセスの異常による疾患の理解に貢献するものと考えられる」と、研究グループは述べている。
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・東京大学大学院新領域創成科学研究科 記者発表