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アルツハイマー病など神経変性疾患、活性化アストロサイトが治療標的候補-京大

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2023年08月10日 AM10:48

進行性神経変性疾患、活性化アストロサイトの産生制御で抑えられるか?

京都大学は8月8日、神経炎症でみられる活性化アストロサイトの産生機構を明らかにし、グリア標的薬アルジャーノン2の経口投与によりアルツハイマー病モデルマウスの神経脱落が抑制され、認知機能が改善されることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の小林亜希子特定准教授、吉原亨特定講師、萩原正敏教授、同大白眉センターのAndres Canela特定准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳には神経細胞とそれを支えるグリア細胞が存在する。グリア細胞の中でもアストロサイト(星状細胞)は、脳組織の中で一番数が多く、神経細胞に栄養を送り、神経細胞の機能が発揮できるようサポートしたり、神経保護をしたりしている。ところが「」と言われる病的な状態では、過剰に産生されたサイトカインに反応してアストロサイトは活性化し、神経細胞死を引き起こす「活性化アストロサイト」に変容する。「」はアルツハイマー病やパーキンソン病などの進行性神経変性疾患の特徴と言われており、活性化アストロサイトはこれら神経変性疾患の患者脳でみつかっている。このことから、活性化アストロサイトの産生を抑制すれば、これらの進行性神経脱落を示す神経変性疾患を抑えられるのではないかと示唆されていた。

アルツハイマー病マウス5xFAD、Nrf2欠損で活性化アストロサイト産生亢進

研究グループは、活性化アストロサイトの産生を制御するキー分子として炎症を抑制することが知られているNrf2という転写因子に着目した。Nrf2は酸化ストレス時に抗酸化遺伝子群の発現誘導を制御するマスター転写因子であると同時に、炎症性サイトカインの転写を抑制することでも知られている。神経炎症を起こしているアルツハイマー病モデルマウス(5xFAD)の脳組織で活性化アストロサイトがどうなっているのかを検討した。

5xFADマウスではアミロイド斑蓄積により神経炎症が起こり、活性化ミクログリアと活性化アストロサイトが観察される。研究グループは、Nrf2遺伝子が欠損していると、5xFADマウス脳で活性化アストロサイトの産生がより亢進していることを見出した。このことからNrf2が神経炎症時の活性化アストロサイト産生を制御していることが示唆された。

Nrf2は神経炎症時に活性化アストロサイトの産生を制御

そこで、次にクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)を行い、Nrf2と炎症制御転写因子NF-κBのp65サブユニットが活性化アストロサイト遺伝子の転写開始領域にどのように分布しているかを調べた。その結果、神経炎症時に活性化アストロサイト遺伝子の転写開始領域へのNF-kBのp65サブユニットの集積が、Nrf2存在下で抑制されることを見出した。さらに新生RNAシーケンス法を用いて、神経炎症時の遺伝子発現を網羅的に確認したところ、ChIP-seqの結果と相関して、Nrf2存在下で活性化アストロサイト遺伝子の発現が抑制されていることがわかった。この結果から、Nrf2は神経炎症時に活性化アストロサイトの産生を制御することがわかった。

Nrf2安定化化合物を投与の5xFADマウス、神経脱落抑制・認知機能改善

Nrf2を介して活性化アストロサイトの誘導を抑制すると、アルツハイマー病のような神経炎症を伴う疾患の発症を抑制できるのか調べるため、研究グループは以前に見出したNrf2タンパク質を安定化することができる化合物アルジャーノン2を5xFADマウスに飲ませた。その結果、活性化アストロサイトの産生と神経脱落の抑制および認知機能の改善が観察された。

以上の結果から、Nrf2経路により神経炎症時の活性化アストロサイトの産生を抑制することで、神経細胞死を抑え、認知機能の低下を抑制できることが示唆された。

神経変性疾患に対し、グリア細胞標的の創薬可能性

神経炎症は神経変性疾患で共通してみられる現象だ。この研究では、神経炎症時に産生される活性化アストロサイトを標的とすることにより、神経の変性を抑え、認知機能低下を抑止できることを示した。この結果は、グリア細胞を標的とすることで、アルツハイマー病などの神経変性疾患に対する創薬可能性を示している。

また、今回の研究で用いたグリア標的薬アルジャーノン2は、当初ダウン症でみられる低下した神経新生を促進する化合物として同定され、さらにグリア細胞において細胞周期因子サイクリンD1-p21の分解を抑制することにより、転写因子Nrf2を安定化することが明らかとなっている。Nrf2は炎症性サイトカイン産生を抑制する機能に加え、神経保護に寄与する遺伝子群の発現を誘導する。アルジャーノン2によりNrf2経路を活性化できれば、神経炎症の軽減に加えて神経保護効果も期待できる。「現在アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に対する治療薬が待たれているが、研究結果で示されたようにアルツハイマー病などの神経変性疾患でみられる神経炎症による神経脱落疾患など、今後幅広い適用が期待される」と、研究グループは述べている。

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