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褥瘡の治療薬候補を同定、SOX2誘導の成長因子AREG-群大ほか

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2023年08月02日 AM11:07

皮膚の傷の治りやすさと関連のSOX2、褥瘡への影響は?

群馬大学は7月31日、皮膚の表皮細胞におけるSOX2が褥瘡の病態において潰瘍の形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科皮膚科学講座の内山明彦講師、茂木精一郎教授、金沢医科大学総合医学研究所生命科学研究領域細胞医学研究分野の岩脇隆夫教授、米国NIHの研究グループ(NIAMS, Laboratory of Skin Biology)のMaria I. Morasso(Ph.D.)氏らの共同研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Investigative Dermatology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

加齢による変化(脂肪・筋肉量の低下、骨突出、免疫能低下、知覚低下、創傷治癒力低下など)によって高齢者では褥瘡が生じやすく、治りにくいことが知られている。超高齢者社会を迎えている日本では、褥瘡患者数も増加し、褥瘡治療の医療費や人件費も増大しているため、褥瘡の予防・治療・管理の重要性は高まっている。

転写因子SOX2は生命の発生過程や幹細胞の制御などに寄与することが知られている。NIHの研究グループは以前に転写因子SOX2を皮膚の表皮細胞に発現させることで皮膚の傷が治りやすくなることを示していた。しかし、SOX2が他の皮膚の傷に関連する疾患、特に褥瘡にどのような影響を及ぼしているのかは十分に研究が進んでいなかった。

そこで今回、転写因子SOX2が及ぼす褥瘡への影響を解明し、さらにSOX2のターゲットであるamphiregulin()の組み換えタンパク質を用いた新たな治療薬の開発の可能性について検討することを目指し、研究を行った。

表皮細胞特異的SOX2発現マウス、褥瘡が有意に縮小

マグネットを用いた皮膚の圧迫による褥瘡モデルマウスを用いた検討において、圧迫部位に生じる褥瘡部では一時的に表皮細胞でSOX2の発現が亢進していることがわかった。さらに、表皮細胞に特異的にSOX2を過剰発現させる遺伝子組み換えマウスを作成し、通常マウスと比較した結果、SOX2を発現するマウスでは皮膚の圧迫による褥瘡の大きさが有意に縮小することを見出した。

SOX2発現マウス、炎症や血管傷害「減」、抗酸化因子の発現「増」

褥瘡の潰瘍部では酸化ストレスの結果、炎症を引き起こす細胞やサイトカイン(iNOS,TNF-α)が増え、血管傷害による低酸素の環境や細胞死を生じる。さらに機序を解明するために、マウスの褥瘡部位における炎症細胞浸潤や炎症性サイトカインの発現、低酸素領域、血管量について検討した。その結果、SOX2を発現させたマウスでは正常のマウスと比較して、炎症細胞数(好中球、マクロファージ)や炎症性サイトカイン(iNOS、TNF-α)の発現、低酸素領域や血管傷害が軽減していた。さらに、酸化ストレス応答因子であるNrf2シグナルが亢進し、抗酸化因子(HO-1)やAREGの発現が増加していたこともわかった。

組み換えAREGタンパク質による治療で褥瘡の大きさが縮小

表皮細胞や線維芽細胞、血管内皮細胞を用いた細胞レベルの実験を行ったところ、組み換えAREGタンパク質が、酸化ストレスの結果生じる活性酸素種の産生や細胞死を抑制することも見出した。最後に、マウスを用いた実験において組み換えAREGタンパク質の局所注射による治療によって、褥瘡の大きさが縮小することを見出した。

組み換えAREGタンパク質の新たな薬剤開発に期待

転写因子SOX2による褥瘡の病態制御の機序をまとめると、次のように考えられる。表皮細胞においてSOX2は酸化ストレスで発現が一過性に上昇する。表皮細胞にSOX2をさらに強く発現させることでNrf2シグナルの活性化を亢進させ、抗酸化作用を増強する。さらに表皮細胞におけるSOX2はAREGなどの成長因子の産生を介して活性酸素種の産生を抑制し、アポトーシスや炎症性サイトカインの産生を軽減させることで褥瘡の潰瘍形成を軽減する。

今回局所注射した組み換えAREGタンパクは、酸化ストレスによって生じる細胞の活性酸素種の産生やアポトーシスを抑制した。表皮細胞におけるSOX2の発現を増やすことや組み換えAREGタンパク質を局所注射することで褥瘡の重症度が改善した。

「AREGを治療ターゲットとした新たな褥瘡の治療アプローチの可能性が見出された。組み換えAREGタンパク質の注射薬や外用剤などの新たな薬剤の開発につながる可能性もあると考えられる」と、研究グループは述べている。

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