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認知症における「肥満パラドックス」、APOE遺伝子型で差異-長寿研ほか

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2023年08月02日 AM11:04

高齢期には逆に有益となる「」、その実情は不明

国立長寿医療研究センターは7月21日、認知症における「」(パラドックス=逆説的な事象)はAPOE遺伝子型で異なることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センターの認知症先進医療開発センター分子基盤研究部の篠原充副部長、里直行部長、米国メイヨー・クリニックらの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

高齢化が加速する現代の日本において、アルツハイマー病をはじめとする認知症の対策は喫緊の課題である。アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβを標的とする抗体治療薬が米国で承認されたものの、認知症の多様性や社会的インパクトを考えるとまだまだ、今後の予防・治療対策は十分ではないのが現状である。

中年期の肥満は認知症の危険因子とされているが、一方で特に高齢期において肥満は認知症の発症を防ぐ可能性がメタ解析も含めて報告されており、その実情について十分に理解されていない。肥満がそのような有益な作用を持つ可能性は、認知症のみならず循環器疾患やがんなどでも注目されており、「肥満パラドックス」と呼ばれている。

一方、アルツハイマー病における最大の遺伝子的な危険因子はアポリポタンパク質E(APOE)遺伝子の遺伝子多型である。多くの人が持つE3多型に比べて、E4多型はアルツハイマー病になりやすくさせ、E2多型はアルツハイマー病になりにくくさせることが知られている。そのようなAPOE多型の影響そのものの理解は進む一方で、肥満パラドックスとAPOE多型の関係性については、わかっていなかった。

E4なしかつE2保因者で特に、初老期の認知機能低下と肥満が正に相関

研究グループは、健常人や認知症者を含む2万人以上について、臨床および神経病理の面からも調査している米国National Alzheimer’s Coordinating Center(NACC)のデータベースを用い、認知症における肥満パラドックスとAPOE遺伝子型について調査した。

今回、初調査時60歳以上の約2万人(平均年齢74.2±8.0歳)を対象に、BMIが30以上だった者を肥満として定義し、認知機能の変化や認知症発症との関係性を解析した。対象者の最終調査時の平均年齢は77.6±8.5歳、臨床上の健常者約7,000人、認知症者約9,000人、軽度認知障害(MCI)約3,000人、その他約1,000人だった。解析の結果、肥満は初老期(80歳もしくは75歳以下)の認知機能の低下と正に相関し、特にE4多型を持っていない人、特にE2保因者で顕著であることがわかった。さらに神経病理記録のある約3,000人を解析すると、その認知機能の低下促進作用には脳の血管障害が関連すると考えられた。

特にE4保因者において、病的な認知症発症と肥満は負に相関

一方で、認知症の発症とは負に相関しており、その効果はE2保因者ではなく、特にE4保因者で認められ、その作用にはアミロイドβやタウなどのアルツハイマー病理の蓄積低下が関連すると考えられた。つまり、肥満があると加齢で生じる認知機能低下は促進されるが、病的な認知症の発症は抑制されるという「認知症における肥満パラドックス」がこのデータベース上でも示唆されるとともに、そのような肥満の作用はAPOE遺伝子型で異なるということを世界に先駆けて発見した。

今後、動物実験や日本人のコホート研究など実施へ

これらの研究結果によって、「認知症における肥満パラドックス」について、APOE多型との関係性、および想定されるその作用機序が明らかになった。近年研究グループは、肥満のアミロイドβ蓄積の抑制効果について、肥満合併アルツハイマー病モデルマウスを用いて動物実験レベルで観察、報告しており、今回の結果と合致する結果であった。そのような動物モデルでの実験を進めることで、分子レベルでのさらなる作用機序の解明や、治療薬開発に結びつけられるものと期待される。「今後、日本人のコホート研究による追試などが必要とは思われるが、今後、普及していくであろうと予想されるAPOE遺伝子検査の意義を考えるうえでも、重要な結果と考えている」と、研究グループは述べている。

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