アルツハイマー病の新治療薬、第3相試験で有効性を確認
新たなアルツハイマー病(AD)治療薬であるドナネマブに、初期段階のADの進行を有意に遅らせる効果のあることが、第3相臨床試験で確認された。この試験の結果は、アルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2023、7月16〜20日、オランダ・アムステルダム)で発表されるとともに、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に7月17日掲載された。
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ドナネマブの開発元であるイーライリリー社は、すでに米食品医薬品局(FDA)への承認申請を完了したことを報告している。同社のエグゼクティブ・バイスプレジデントであるAnne White氏は、「もしFDAが承認すれば、ドナネマブはAD患者に臨床的に意義のあるベネフィットをもたらすことができるとわれわれは確信している。この薬が奏効して脳内のアミロイドプラークが除去されれば、早い人では6カ月で治療が完了する可能性もある」と話す。
今回報告された臨床試験は、ADの初期症状を有する1,736人(平均年齢73.0歳、女性57.4%)を対象に実施された。対象者のタウ病理は、1,182人(68.1%)が低〜中等度、552人(31.8%)は高度だった。対象者は、72週間にわたって4週間おきにドナネマブを投与する群(860人)とプラセボを投与する群(876人)にランダムに割り付けられた。
タウ病理が低〜中等度の対象者の間で試験開始から1年後に臨床的認知症尺度の各スコアの合計点(CDR-SB)で評価した認知機能に低下が認められなかったのは、ドナネマブ群で47%に上ったのに対し、プラセボ群では29%にとどまっていた。また、統合AD評価尺度(iADRS)スコアの試験開始時から76週目までの変化量は、タウ病理が低〜中等度の患者では、ドナネマブ群で−6.02点、プラセボ群で−9.27点(群間差3.25、95%信頼区間1.88〜4.62、P<0.001)であり、ドナネマブ群ではプラセボ群に比べて、認知機能低下が35.1%抑制されたことが明らかになった。タウ病理の程度に関わりなく全対象者を対象にしても、ドナネマブ群ではプラセボ群よりも認知機能の低下が22.3%抑制されていた。
イーライリリー社の神経科学研究開発グループのバイスプレジデントであるMark Mintun氏は、「この研究結果は、現行よりも早期にADを診断して治療することの重要性を強調するものだ」と述べている。同社のニュースリリースによると、ドナネマブの投与を受けた対象者の約52%はその有効性から1年後までに、約72%は1年半後までに服薬を中止することができたという。
以上のような有望な結果が明らかになったものの、論文とともに発表された4本の付随論評では、治療にかかる費用や治療へのアクセス、薬剤の安全性に関して懸念が表明されている。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のEric Widera氏は、「抗アミロイド抗体が、低リスクで安価、かつ簡単に投与できるのであれば、患者、臨床医、保険会社などの支払者は、ドナネマブにより得られるささやかなベネフィットを疑問視しなかっただろう。だが、ドナネマブはいずれの条件も満たさない」と話す。
また、米コロンビア大学アーヴィング医療センターのJennifer Manly氏と米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)統合生物学・生理学部門のKacie Deters氏は、ドナネマブは脳内アミロイドの除去には非常に有効だったが、臨床的な効果はiADRSで評価した認知機能の低下を約4カ月遅らせる程度であり、比較的弱いものだったとしている。
さらに、UCSF記憶・老化センターのGil Rabinovici氏とRenaud La Joie氏は、「本試験で確認された認知機能低下の遅延は重要な出発点となるものだ。一部の患者では、ドナネマブにより臨床的な意義を期待できるだろうが、より高い効果の見込める安全な治療法の開発が必要なことに変わりはない」との見解を示している。
一方、米ハーバードT.H.チャン公衆衛生大学院医療政策・管理学分野のMeredith Rosenthal氏は、「ドナネマブによる治療は、自己負担額が高額になり得る点と、点滴や高度な画像診断が可能な医療機関への通院が必要になる点の両方が、治療アクセスに対する不平等な障壁となる可能性が高い」と指摘している。ドナネマブは毎月1回、点滴で投与されるが、薬剤価格は年間2万8,000ドル(1ドル139円換算で389万2,000円)になると見込まれている。
▼外部リンク
・Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial
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