冠動脈の痙攣によって血管狭窄が生じる疾患、遺伝的背景は不明
国立循環器病研究センターは7月10日、東アジアのもやもや病の創始者多型として同定され、日本人の約2%が保有するRNF213遺伝子p.R4810Kバリアントが、冠攣縮性狭心症と関連することを発見したと発表した。この研究は、同センター脳神経内科の石山浩之医師、田中智貴医長、吉本武史医師、猪原匡史部長、野口輝夫副院長、病態ゲノム部の髙橋篤部長、予防医学・疫学情報部の尾形宗士郎室長、西村邦宏部長、バイオバンクの朝野仁裕部長、京都大学医学研究科環境衛生学の小泉昭夫名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC: Asia」にオンライン掲載されている。
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冠攣縮性狭心症は、心臓に栄養を送る冠動脈の痙攣によって一時的な血管狭窄が生じ、心臓の血流が悪くなることで胸痛や心筋梗塞を引き起こす病気である。冠攣縮性狭心症は、日本を含む東アジアで頻度が高いことが知られているが、その遺伝的背景は明らかにされていない。
もやもや病の創始者多型RNF213遺伝子p.R4810Kについて検証
東アジアのもやもや病の創始者多型として同定されたRNF213遺伝子のp.R4810Kバリアントは、日本人の約2%が保有する遺伝子の個人差である。先行するゲノム研究において、同バリアントと冠動脈疾患の関連が示されたが、他の研究では同結果の完全な再現が得られなかった。もやもや病はときに冠動脈攣縮を合併することが知られていたことから、研究グループは「RNF213 p.R4810Kバリアントが冠動脈疾患の中でも、特に冠攣縮性狭心症と関連する」という仮説を立て、今回の研究で検証した。
RNF213 p.R4810Kバリアントを評価した8,175人を対象とした症例対照研究を行った。同センターバイオバンクに登録された冠攣縮性狭心症66人を含む冠動脈疾患1,088人と、健常コントロール1,011人または冠動脈疾患を除く疾患コントロール6,076人における、RNF213 p.R4810Kバリアントの保有率を比較した。今回、RNF213 p.R4810Kバリアントの保有率が非常に高い(73〜95%)もやもや病は除外している。同バリアントと冠動脈疾患の関連を年齢、性別、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙を調整して評価した。
健常コントロールとの比較、冠動脈疾患全体では関連しないが冠攣縮性狭心症では関連
まず、冠動脈疾患1,088人と、健常コントロール1,011人の比較を行った。RNF213 p.R4810Kバリアントの保有率は冠動脈疾患全体では3.9%(42/1,088人)、健常コントロールでは2.1%(21/1,011人)であり、調整後に同バリアントと冠動脈疾患に有意な関連を認めなかった(調整オッズ比1.83、95%信頼区間[0.88–3.82])。
冠攣縮性狭心症66人中7人(10.6%)には同バリアントを認め、さらに調整後も有意な関連を認めた(6.03[2.12–17.15])。冠攣縮性狭心症のサブグループ解析では、女性や脂質異常症を有する患者が特に強い関連を示した。
疾患コントロールとの比較でも同バリアントが関連
次に、冠動脈疾患1,088人と、疾患コントロール群6,076人との比較を行った。RNF213 p.R4810Kバリアントの保有率は冠動脈疾患全体では3.9%(42/1,088人)、疾患コントロールでは2.8%(168/6,076人)であり、健常コントロールとの比較と同様に冠攣縮性狭心症は調整後も同バリアントと有意な関連を示した(6.86[2.98–15.80])。また、すべてのサブグループにおいて、同バリアントと冠攣縮性狭心症は関連し、女性と脂質異常症を有する患者で関連が強く見られた。
侵襲的な検査前の補助検査にもつながる可能性
今回の研究において、これまで明らかにされていなかったRNF213 p.R4810Kバリアントと冠攣縮性狭心症の関連が示された。同バリアントは、東アジアで頻度が高く、欧米ではほとんど見られないことから、この知見により冠攣縮性狭心症の人種差の原因の一部を説明できる可能性がある。「誘発試験などの侵襲を伴う検査を必要とする冠攣縮性狭心症の診断において、同バリアントの評価が、侵襲的な検査を施行する前の有用な補助検査となる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース