患者視点を政策の形成過程で効果的に取り込むには?
大阪大学は6月23日、患者の視点を反映した政策形成のためのエビデンス創出と、そのためのステークホルダー間の協働の方法の開発を目的する「コモンズプロジェクト」の患者・行政経験者のメンバーらとともに、患者の視点を反映した研究を実現していくために必要な政策を提言としてまとめ、発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の古結敦士助教、磯野萌子助教、加藤和人教授(医の倫理と公共政策学)らの研究グループによるもの。提言の詳細は、同大大学院「医の倫理と公共政策学」のウェブサイトに掲載されている。
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近年、政策を形成する際に、何らかの根拠をもとに政策を立案し実装することが求められるようになってきている。それと同時に、その過程に当事者が関与することの重要性が認識されている。医療・健康分野においては、徐々に患者が医療現場における意思決定や医学の研究に積極的に参画できるように、流れが変わりつつある。実際に、日本の生命倫理専門調査会におけるヒトゲノム編集の研究ガバナンスによる議論では、市民、専門家、患者などステークホルダーが関与していることが明らかになっている。このような流れは、この分野に関連する政策を形成する過程にも波及していくことが予想される。しかし、どのようにすれば患者視点を政策の形成過程に効果的に取り込めるのか、というような問題についてこれまで明らかになっていない。
特に、今回の研究で対象とした希少疾患領域では、一部の、個々の患者会による陳情型で意見を伝えることに留まっており、患者会をもたない疾病の患者や、患者会活動が活発ではない疾病の患者の声も含め、希少疾患領域の政策に、より客観的な形で患者の声を反映させることが課題となっている。
患者・患者家族が直面する「困難」について、当事者・研究者・行政経験者が議論
研究グループは、患者、患者家族といった当事者を含むさまざまな立場の人が継続的に意見を交わし、政策形成の際に参照可能なエビデンスを生みだしていくような「場=コモンズ」を作ることを目指して「コモンズプロジェクト」を開始した。今回の研究では、10疾患の希少疾患の患者・患者家族、研究者、行政経験者が計20回以上のワークショップを通して継続的に熟議を行った。このような継続的な熟議の場を通して、参加者がお互いの視点や考え方を学び合い、自身の成長と信頼関係の醸成を実感し、そのことが議論の深化に大きく寄与した。
その結果、希少疾患を抱える患者やその家族は、診断や治療等の医療面に関することだけではなく、生活面や心理面の負担、つながりや情報、認知・理解の不足をはじめとする、多岐にわたる、計り知れない困難に直面していることを改めて整理して提示することができた。このような困難は、既存の政策や研究だけでは十分に対応できていないことが議論を通して明らかとなった。
「当事者の困難」を研究する際の優先順位テーマも議論
さらに、そのような困難に対して研究として取り組む際に、どういった研究テーマに優先して取り組むべきかという優先順位についても議論を行った。その結果、特に優先度の高いものとして、1)日常生活の支障、経済的な負担、就労就学の悩みなどの生活面の負担の軽減や解決を目指すような研究、2)不安や悲観、遺伝性疾患に特有の心理といった精神心理面の負担の軽減や解決を目指すような研究、3)通院の負担(時間的・労力面の負担など)の軽減や解決を目指すような研究、が挙げられた。なお、患者・患者家族も共に研究を進める立場として参画し、議論の進め方や結果のまとめ方についても共に検討を行った。
「患者参画のあり方を考える研究の推進」など3項目の提言を発表
研究グループは、これらの結果を基に、より患者の視点を反映した研究や政策を実現するために特に重要なことを3項目にまとめ、提言として公表した。
提言1.より多面的な患者の負担に焦点を当てた希少疾患研究の推進
提言2.患者参画型の研究や活動の推進
提言3.患者参画のあり方を考える研究の推進
提言1は、今回の研究で特に重要とされた研究テーマをはじめとする、より多面的な患者の負担に焦点を当てた希少疾患研究の推進に関するものだ。多面的な負担の軽減や解決を目指す研究に加え、現在行われている施策や研究の不十分な点を明らかにする研究の推進についても提言している。
提言2は、提言1で示されたような研究から患者のニーズに直接的に応えるような成果を生み出せるようにするための提言である。患者が研究の計画や実施のプロセスに関わること(患者参画)で、より患者の視点を反映した研究の実現が期待される。そのために、政策として、患者参画型の研究の企画立案に対する助成や、患者参画のための活動資金の助成、患者参画のための準備期間の設定や研究期間の延長などを提案している。
提言3は、患者参画をさらに広げていく上で必要となる、患者参画そのものに関する経験や知見を深めることについての提言である。具体的には、1)海外で実施されている患者参画が日本でも適用可能かどうかを実証する研究、2)日本で萌芽的に実施されている患者参画の利点と課題を整理・分析する研究、3)日本の医学研究のどのような部分に患者参画が導入できるかを実証する研究、4)患者参画の効果に関する評価方法を明らかにする研究、などを政策として推進することを提言している。
「本提言をもとに、より多面的な患者の負担に焦点を当てた希少疾患研究や、患者参画型の研究と活動、患者参画そのものについての研究が進むことで、より患者の視点を反映した研究や政策が実現することが期待される」と、研究グループは述べている。
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