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怖い気持ちを共感するときの脳の働きを解明、マウス実験で-東大

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2023年07月05日 AM11:05

他マウスの恐怖体験を見たマウスはすくみなど多様な行動を示すが、その神経メカニズムは?

東京大学は7月3日、怖い気持ちを共感するときの脳の働きを、マウスを使って解明したと発表した。この研究は、同大定量生命科学研究所の奥山輝大准教授、田尾賢太郎助教、度会晃行特任助教、日本学術振興会の王牧芸特別研究員、同大大学院医学系研究科の黄子彦大学院生、ジョンミョン大学院生、伊藤広朗大学院生の研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

「親友が悲しくなっているのを見ると、自分のことのように悲しくなる」といった、情動が人から人に伝染する現象は情動伝染と呼ばれる。同現象は、共感の最も核となる現象であると考えられており、ヒトだけではなく、マウスなど多くの動物種で見られ、実験室では観察恐怖行動実験を用いてその神経メカニズムが精力的に探索されてきた。マウスを用いた観察恐怖行動実験では、電気ショックを与えられ、恐怖反応を示す他者マウスを見て、観察マウスも恐怖反応を示す。観察マウスの恐怖反応として、これまでの研究は、マウスがその場でうずくまって震えるすくみ行動に着目して神経メカニズムを解析し、痛みの認識に関わる前帯状皮質(ACC)や情動を司る基底外側扁桃体(BLA)といった脳領域が関与することを示してきた。一方、観察恐怖行動実験において、観察マウスはすくみ行動以外にも多様な行動を示すが、その神経メカニズムについては不明な点が多く残されている。

技術の組み合わせで複雑な行動の自動分類に成功、逃避行動に関わる脳領域vmPFCを特定

今回の研究では、深層学習に基づいた動物の体点を追跡する技術と次元削減クラスタリングを組み合わせることにより、観察恐怖行動中に観察マウスが示す複雑な行動を、客観的に自動分類することに成功した。この行動の自動分類法を用いて解析したところ、観察マウスの腹内側前頭前野(vmPFC)に光遺伝学的抑制を行った結果、すくみ行動は減少しないものの、恐怖を受けている他者を観察する行動が増加し、「逃避行動」が減少するように、行動変化が生じることがわかった。さらに、ACCとBLAからvmPFCへの神経入力をそれぞれ光遺伝学抑制すると、vmPFCのみを抑制した時とは反対に、逃避行動の増加が見られた。これらの結果から、vmPFC、ACC→vmPFCとBLA→vmPFCの神経入力は主に逃避行動の制御に関わることがわかった。

vmPFCに自分と他者の恐怖情報を「同時に」持つ神経細胞群が存在

続いて、観察マウスのvmPFCの神経細胞が持つ情報を調べるため、観察恐怖行動実験中に脳の神経活動を観察できる脳内内視鏡を用いたカルシウムイメージングを実施。その結果、観察マウスの特定の行動状態を反映する神経細胞が、vmPFCに存在することを発見した。さらに、観察マウスの示す行動は、神経細胞集団の活動からデコードすることができたため、vmPFCの神経細胞は自分の行動状態の情報を持っていることがわかった。

また、vmPFCには他者マウスの電気ショックに応答する神経細胞が存在することが判明。他者へのショックの情報を持つ細胞群と、自分のすくみ行動の情報を持つ細胞群が重なっていることが明らかになった。これは、「自分の恐怖」と「他者の恐怖」の両方の情報を、同時に合わせ持つ神経細胞がvmPFCに存在することを示唆している。

ACCとBLAからvmPFCへの情報入力、vmPFCでの自分と他者の感情情報処理に寄与

さらに、ACCとBLAからの神経入力を光遺伝学抑制しながら、vmPFCの神経活動を同様の方法で記録すると、この「自分の恐怖」と「他者の恐怖」の両方の情報を同時に合わせ持つという特徴に異常が生じることがわかった。この結果は、ACCとBLAからvmPFCへの情報入力が、いずれもvmPFCにおける自分と他者の感情の情報処理に寄与していることを示唆している。

共感性に困難を抱える自閉スペクトラム症への理解が進むことに期待

共感は、「自分」と「他者」の境界が一時的になくなるように感じられる現象であり、わたしたちの日常生活において、良好なコミュニケーションの構築に重要な役割を果たしている。今回発見された、共感時に「自分」と「他者」の情報を合わせ持つニューロンは、自他の境界がなくなるように感じられる脳内メカニズムに寄与する可能性があるという。今回の研究をもとに、将来、自他の境界があいまいで、他者の気持ちへの共感性に困難を抱える自閉スペクトラム症への理解が進むことが期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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