AIが腹腔鏡下大腸切除術の手術工程を自動認識するモデルを開発、精度を検証
国立がん研究センターは6月19日、エキスパートが実施した腹腔鏡下大腸(S状結腸)切除術60症例の手術映像を用い、AIが手術工程を自動認識するモデルを開発したと発表した。この研究は、同センター東病院 医療機器開発推進部門の伊藤雅昭部門長の研究グループと、日本内視鏡外科学会の研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Surgery」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
これまで多くの手術技能評価に関する研究・開発が行われてきたが、最もよく実施されているのは熟練外科医が手術や手術動画を見ながら評価を行う古典的な方法だ。この方法は評価者の労力と膨大な時間が必要で、また、個人の評価に頼るため主観性が排除しきれず、トレーニングや技能向上にも生かしづらいという課題がある。そのため、より客観的で効率的な手術技能評価方法の構築が求められている。
近年、AI、特に深層学習は、診断や意思決定などを支援することで、診療に大いに貢献する可能性が期待されている。AIは写真や映像の中の対象物の特徴を学び、新しいデータに対して予測を行い、それを識別・検出・分類する。手術映像やそこに映る対象物をAIにより画像認識することは、手術中の外科医のパフォーマンスや事象を客観化・定量化することにもつながり得る極めて新しい試みだ。
研究グループは今回、AIが熟練外科医の腹腔鏡下大腸切除術における手術工程を認識できるモデルを開発。さらに開発したモデルを用いて、手術工程認識の確信度に基づく自動手術技能評価の可能性を検討した。
AIの画像認識スコア、日本内視鏡外科学会技術認定制度の評価スコアと強く相関
手術工程を認識するモデル開発のため、内視鏡外科手術の技能を評価する日本内視鏡外科学会技術認定制度審査で評価された650症例の手術映像を用いた。これらは学会の技術認定審査を受けるために提出されたもので、このうち極めて高いスコアだった60症例の手術映像を、エキスパートによる手術としてAIに学習させた。
同モデルは各手術の工程を認識し、それがどの程度信頼できるかを示すAIによる画像認識スコアを算出することで、AIが評価したエキスパート手術との類似度を出力する。同モデル作成のため、深層学習技術の一種「Convolutional Neural Network(畳み込みニューラルネットワーク)」を用いた。
性能の検証は、日本内視鏡外科学会の技術認定制度審査結果に基づいて高スコアから低スコアなど各グループに分けられた、別の60症例の手術映像を用いて行った。その結果、日本内視鏡外科学会技術認定制度審査の評価スコアと、AIによる画像認識スコアとの間の相関係数は0.81と、極めて強い相関を認めた。
低スコアグループのスクリーニングAUROC=0.93、高スコアでは0.94
また、技術認定制度審査スコアの高いグループと低いグループを自動的に識別する能力も評価した。閾値(高スコアと低スコアを識別するための境界値)を設定し、手術映像がどのスコアグループに属するか診断したところ、閾値が0.88のとき、低スコアグループのスクリーニングのための特異度と感度はそれぞれ93.3%と82.2%、低スコアグループのスクリーニングのためのAUROC(the Area Under the Receiver Operation Characteristic)は0.93だった。
閾値が0.91のとき、高スコアグループのスクリーニングのための特異度と感度はそれぞれ93.3%と86.7%、高スコアグループのスクリーニングのためのAUROCは0.94だった。
自動的な手術技能評価や自動スクリーニングシステム実現の可能性
今回開発されたAIモデルが算出した画像認識スコアは、日本内視鏡外科学会技術認定制度審査の評価スコアと強く相関し、同モデルによる自動的な手術技能評価や自動スクリーニングシステムの実現可能性が示された。
「本研究の方法論は他の種類の内視鏡手術にも適用可能なので、引き続き日本内視鏡外科学会と連携し、複数領域での評価が可能となるよう検討を続ける」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立がん研究センター プレスリリース