産後うつは妊娠中からの追跡が難しく大規模な検討は行われていなかった
東北大学は6月13日、東北メディカル・メガバンク計画による三世代コホート調査に参加した妊産婦のうち、産後にうつ症状を呈する群と抑うつ症状を呈さない群において、妊産婦の妊娠中と産後の血漿中の代表的なサイトカインのレベルを比較した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科兼同大東北メディカル・メガバンク機構の富田博秋教授、小野千晶研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されている。
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女性のライフイベントにおいて、妊娠や出産は身体的のみならず精神的にも大きな影響がある。妊娠期~産後は精神障害のリスクが高い時期であり、日本では10~15%の母親が産後うつになるとされている。自死や育児放棄、児への虐待、家族関係への影響などさまざまな社会問題と深く関わっている。妊娠~産後には免疫機構のダイナミックな変動が起こり、免疫機構の変動は精神状態や精神疾患への罹患と関連することが注目されている。しかし、産後うつに関しては、(うつ症状を呈さない状態の)妊娠中からうつ症状を発症した産後の免疫機構を検証するための追跡は難しく、大規模な検討は行われていなかった。
産後うつ247/対照243人対象、妊娠中期と産後1か月血中9種サイトカインレベルを比較
今回、研究グループは、東北メディカル・メガバンク計画による三世代コホート調査に参加した妊産婦のうち、産後1か月に産後うつ症状を呈する247人(産後うつ群)と抑うつ兆候のない妊産婦243人(対照群)を対象に妊娠中期と産後1か月の血漿中の9種類の代表的なサイトカインのレベルを比較した。
IL-4、産後うつ群で妊娠中・産後の両方で有意に低下
横断的な比較をした結果、条件によっては炎症を抑制する働きを持つことから抗炎症性サイトカインに分類されるIL-4が産後うつ群で対照群と比較して妊娠中と産後の両方で有意に低下していることが明らかになった。
IL-10、妊娠中でのみ産後うつ群で有意に低い
また、同じ抗炎症性サイトカインのIL-10は、妊娠中でのみ産後うつ群で有意に低いことが示された。一方、専ら炎症を促進する働きを持つ炎症性サイトカインでは妊娠中・産後両方で産後うつ群と対照群で有意な違いは認められなかった。今回の研究の結果は、妊娠中の抗炎症サイトカインレベルは産後の心の健康状態と関連している可能性を示しているという。
妊娠中から産後うつ予測、予防的対策を講じる手段開発に期待
今回の研究では、産後うつを対象に、妊娠中と産後の血中サイトカインレベルの解析を大規模に実施。妊娠中の抗炎症サイトカインレベルの低下と産後うつとの関連を示唆した。この成果は、産後うつの病態解明につながるほか、マーカーとして活用することで妊娠中から客観的指標として産後うつを予測し、予防的な対策を講じる手段の開発に貢献することが期待される、と研究グループは述べている。
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