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iNPH判定に重要な「高位円蓋部・正中の脳溝の狭小化」の定義を提案-名古屋市大ほか

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2023年06月12日 AM11:04

脳萎縮と誤解され得る特発性正常圧水頭症、判定する明確な定義が必要

名古屋市立大学は6月7日、)を見つけるために重要な所見である「高位円蓋部・正中の脳溝の狭小化()」の判定に有用な指標を新たに提案したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科脳神経外科学の山田茂樹講師、、東京大学、、富士フイルム株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「World Neurosurgery」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳に水が溜まる慢性水頭症は、実は子どもよりも60歳以上の高齢者に多く、特にiNPHは加齢に伴って発症率が増加傾向にあり、超高齢社会の日本では今後も増えていく病気である。症状は、速く歩けなくなる、ふらつくなどの軽い歩行障害から始まり、次第にすり足歩行、小刻み歩行、開脚歩行、すくみ足、突進現象などの病的歩容が顕著となり、転倒して動けなくなったり、頭部外傷・骨折で救急搬送されることが多い。さらに歩行障害が進行すると、自力で歩けなくなり、立ち上がることも難しくなる。歩行障害以外では、やった事を忘れてしまう、行動する意欲がなくなり一日中ボーと座っているなどの認知機能低下、トイレが近くなる頻尿、トイレまで我慢ができない切迫性尿失禁などの症状が進行性に出現して、悪化していくため、重症化すると日常生活に介護が必要となる。症状が進行してから治療を受けても、自立した生活を取り戻すことは難しいため、早期発見、早期治療が重要と考えられている。

しかし、iNPHでは脳の内側にある脳室だけでなく、脳脊髄液の大半を占める脳の周囲を覆うくも膜下腔も同時に拡大することが多く、「水頭症は脳の内側に存在する脳室が拡大する病気」という医師の思い込みから、しばしば「脳萎縮」と誤解されて、発見が遅れてしまう。脳萎縮とiNPHを判別するために重要な画像所見として、くも膜下腔の不均衡分布()、高位円蓋部・正中の脳溝の狭小化(THC)が認知されつつあるが、このTHCを判定する際に、どれくらいの体積(もしくは体積割合)であれば狭いと判定して良いのか、そもそもどの部位を計測すれば良いのか、これまで明確な定義がなく、主観的に評価されているため、経験豊富な専門家でも判定が異なることが課題であった。

過去の文献を参考に、「高位円蓋部・正中の脳溝・くも膜下腔」の位置を定義

DESHが提唱された2010年以降の論文を網羅的に検索し、本文中にTHCの判別に用いる部位について記載されていた6論文を抽出した。しかし、いずれの論文にもTHCの判別に用いるCTやMRIの断面については記載されていたが、どの部位かは定義されていなかった。これら6論文の他に、2019年に米国メイヨークリニックの研究グループから機械学習を用いてDESH、THCの判定に有用な部位として脳梁溝(もしくは帯状溝)の後端より前方の脳溝が同定された。この結果を参考にして、THCの判定に用いる高位円蓋部・正中の脳溝・くも膜下腔の部位として、3次元MRI画像の矢状面でAC-PCラインに垂直かつACとPCの中点を通る冠状断面において、頭頂部の正中から左右に3cmの範囲かつ、脳梁膝部前端より後方、脳梁溝(帯状溝)後部より前方、側脳室より上方の範囲を高位円蓋部・正中の脳溝・くも膜下腔と定義した。

THC判定に有用な指標として「HCVRが0.6未満」を提唱

21歳から92歳までの健常ボランティア138人とDESHと判定されたiNPH患者43人について、3テスラMRI装置を用いて頭部3次元T1強調MRIとT2強調MRIを撮影し、T1強調MRIは脳区域解析アプリケーションにより、脳室とくも膜下腔を自動領域抽出し、T2強調MRIから脳室とくも膜下腔を手動で領域抽出した。抽出したくも膜下腔から、定義した高位円蓋部・正中の脳溝・くも膜下腔の領域を手動で抽出し、体積と頭蓋内容積に占める体積割合を算出した。体積、体積割合ともに、健常者とiNPH患者では有意差が認められたが、T1強調MRIかT2強調MRIかによって差があり、カットオフ値を一つに絞ることができなかった。そこで、高位円蓋部・正中の脳溝・くも膜下腔の体積を脳室体積で割った比(HCVR:high-convexity part of the subarachnoid space volume per ventricular volume ratio)について検証したところ、T1強調画像とT2強調画像のいずれにおいても0.6未満であれば、THCである可能性が高く、判定に有用な新たな指標として提唱した。

経験豊富な医師でなくてもDESH判別可能に、診断・治療の地域偏在を減らすことにもつながる

これまでは主観的に評価されていたTHCの判定が、今回の研究により定義が明確となり、定量的・客観的に評価可能となったことで、経験豊富な医師でなくてもiNPHに特徴的な画像所見であるDESHを判別しやすくなったと考えている。「今後は、本研究で定義した高位円蓋部・正中の脳溝・くも膜下腔の部位を深層学習で自動抽出し、DESH、THC、脳室拡大を自動判定するアプリを開発・リリース・社会実装につなげることで、診断・治療の地域偏在を減らし(医療の均てん化)、高齢者の生活自立の向上や健康寿命の延伸に貢献したいと考えている」と、研究グループは述べている。

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