尿細管の代謝失調によるタンパク尿発症、その機序は?
徳島大学は6月6日、糖尿病性腎臓病の抑止に、ミトコンドリアリボソームの活性化が重要である可能性を、マウスモデルを用いた実験で発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学研究部腎臓内科学分野の長谷川一宏准教授、脇野修教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of the American Society of Nephrology(JASN)」に掲載されている。
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糖尿病は、現代社会のもたらす最大の生活習慣病で、国内の患者数は約1000万人と推定されている。糖尿病から生じる腎臓障害は、糖尿病性腎症もしくは糖尿病性腎臓病であり、透析導入の最大の原因である。糖尿病性腎臓病は、糖尿病や高血圧への治療が中心であり、腎臓そのものへの有効な治療法は存在しない。このことが、増え続ける一方の患者数と医療費増大に歯止めが利かない理由だ。
腎臓は、流れ込む血液から尿を作り体の中の老廃物を排泄する。尿を作る場所は、濾過器の働きをする糸球体という部分で、毛細血管のかたまりとして糸くずのような構造となっている。この濾過器が目詰まりすれば尿は生成されず、逆に目の粗いザルのように素通りとなればタンパク尿となる。腎臓には、さらにこの濾過器で濾し取られた尿のもと(原尿)が通る尿細管という部分がある。この部分では、必要な物は原尿から再吸収され、老廃物はさらに原尿の中に排泄される。こうして最終的に体外に排泄される尿が生成される。尿細管には、ミトコンドリア、並びにミトコンドリア独自のタンパク質合成装置であるミトコンドリアリボソームが豊富に分布する。
研究グループは以前の研究で、腎臓において「尿の通り道」という概念で捉えられていた尿細管の代謝失調が、糸球体の「濾過器」を構成する足細胞の機能にも異常が波及し、「濾過器」が障害され、タンパク尿が出現するという一連の病気の流れを解明している。尿細管の細胞から糸球体足細胞への対話が途絶えてしまうことが糖尿病の極めて早い段階で生じ、発症に関与している。この連関を、「尿細管-糸球体連関」と名づけている。
糖尿病性腎症マウスでミトコンドリアリボソームの機能低下を発見、「PCK1」過剰発現で活性化
今回、研究グループは、糖尿病性腎症を来たしたモデルマウスを解析し、尿細管のエネルギー代謝失調に、ミトコンドリアリボソームの機能低下が起こっていることを新たに見出した。ミトコンドリアリボソームの機能低下が生じた時には、すでに糖尿病性腎臓病は発症している。
そこで、これまで糖新生酵素としての作用に主眼が置かれてきた酵素「PCK1」を尿細管のみに過剰発現させたところ、今まで糸球体のろ過機能の破綻により主に生じると考えられてきたタンパク尿の低下効果を認め、その機序としてミトコンドリアリボソームの活性化作用が重要であることがわかった。
PCK1活性化をもたらす薬剤などの開発に期待
研究成果により、PCK1の活性化をもたらす薬剤などの開発が、糖尿病性腎臓病の病気の進行を長期的に抑え得る画期的な治療につながる可能性が考えられた。
新型コロナウイルス感染症の重症化危険因子の中には、糖尿病、慢性腎臓病、透析の3疾患が含まれ、これらの基礎疾患の免疫力低下が要因とされている。糖尿病性腎臓病は糖尿病患者が慢性腎臓病を経て透析になる最大要因の疾患であり、この発症や進行を抑えれば、慢性腎臓病や透析患者の発症抑止にも大きな成果が得られる可能性がある。透析患者増大のみならず、新型コロナウイルス感染症重症化抑止につながる基礎研究結果と考えられる。
「糖尿病性腎臓病はある程度進むとなかなか進行を止めることが難しい。これまでの進行を遅らせる治療から、発症させない「先制医療」が実現すれば、発症や進行のみならず、重篤化も避けられるため高い効果を得られると予想される。研究が前進し、「超早期」の介入による新たな治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・徳島大学 プレスリリース