胸部単純X線画像は専門家評価が必要、より客観的で精度の高い方法開発へ向けて
徳島大学は5月23日、胸部単純X線画像から心不全確率を算出し、専門医以上の精度で病態および予後を推定することが可能な人工知能(AI)を開発したと発表した。この研究は、同大循環器内科の楠瀬賢也講師と佐田政隆教授ら、帝京大学大学院医療技術学研究科診療放射線学専攻の古徳純一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Cardiovascular Medicine」に掲載されている。
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日本は生活習慣の欧米化による虚血性心疾患や高齢化による高血圧、弁膜症の増加などにより、心不全患者が激増する「心不全パンデミック」のさなかにある。しかし、働き方改革や専門医の不足により、心不全診療は限界が近付いている。このような背景から、心不全診療における人工知能(AI)による医療サポートが急務となっている。
胸部単純X線画像は、医療現場で一般的に利用されており、患者への負担が少ない。撮影が簡便であり車両にも搭載できるアクセス性の高さに加え、誰が撮像しても同じ画像が得られる再現性の高さという利点がある。心不全を疑う際に胸部単純X線画像が用いられるが、専門家による評価が必要であり、より客観的で精度の高い方法の開発が望まれている。
胸部単純X線画像からAIで心不全確率を算出、専門医判断より高精度に予後予測
今回の研究では、胸部単純X線画像からAIにより心不全確率を算出し、専門医の判断と比較して心不全の病態および予後をより正確に推定することが可能かどうかを検証。開発したAI技術を用いて、192症例の心不全患者における胸部X線画像を解析した。
解析の結果、心不全治療後退院時の心不全確率が高い症例において、その後の再入院率が有意に高く、専門医の判断より高い精度(従来の指標のみ:72%、AIの指標を加えた場合:78%)で予後予測が可能だった。この心不全確率は、治療により改善することも示されたことから、胸部X線画像から新たなバイオマーカーとしての指標をAIで得ることができると考えられるという。
注目領域を可視化するアルゴリズム適用、AI注目領域を色の濃淡で表示
また、従来のディープラーニングによる判断プロセスはブラックボックスであるため、専門家でもAIが出した回答の理由や根拠を説明できないことが問題となっていた。この問題を解決するために、注目領域を可視化するアルゴリズム(Grad-CAM)を適用することでAIが画像のどこに注目をして判断を下しているかを胸部単純X線画像上に色の濃淡で表示。AIの注目領域と医師の注目領域が一致していることを確認できることから、信頼性の高い「説明可能なAI」として臨床に用いられることが期待される。
従来の目視診断より、高精度で心不全の重症度・予後予測に期待
一般的に利用される胸部単純X線画像に、今回の研究で開発したAI技術を用いることで、従来の目視による画像診断よりも高い精度で心不全の重症度および予後を予測できることが期待される。胸部X線画像は健診等でも広く用いられ、どの地域でも撮像可能な医療画像であることから、へき地医療や離島地域など専門医師が不在となるなど医療資源の十分でない地域での応用も期待される、と研究グループは述べている。
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