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AAVベクター遺伝子治療の局所特異性向上に「PEGスライム」が有用な可能性-東大

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2023年05月18日 AM11:18

AAVベクター、治療臓器以外の部位で作用し合併症を引き起こす可能性も

東京大学は5月16日、皮膚潰瘍表面をターゲットとしたアデノ随伴ウイルスベクター()による遺伝子導入の効果を局在化させる方法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の加藤基大学院生(研究当時)、岡崎睦教授、同大医学部の栗田昌和講師と同大大学院工学系研究科の石川昇平助教、酒井崇匡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

AAVは、生体内の細胞への遺伝子導入に用いられる強力なベクター。リポ蛋白リパーゼ欠損症、、網膜ジストロフィー、血友病などに対して臨床的に用いられているほか、最近では生体内ゲノム編集による治療法開発にも広く用いられている。バイオ医薬品開発の重要な一角を担う一方で、投与されたAAVは治療効果を期待する臓器以外の部位で作用し、意図しない合併症を引き起こす可能性がある。これまで、AAV作用部位の特異性の制御方法として、AAVカプシドの組織・細胞指向性の最適化、組織特異的プロモーターの使用、投与経路の検討などが試みられてきた。

PEGキャリア+AAVで皮膚潰瘍表面局所へより安全に遺伝子導入できるか検討

一方、研究グループは、生体内リプログラミングによる皮膚潰瘍表面からの新規皮膚誘導法や組織胎児化による複合的組織再生法の開発など、主に皮膚潰瘍局所に対する治療的介入法の開発に取り組んできた。高齢化により増加しつつある褥瘡(じょくそう)、、末梢血管不全による組織壊死などに対する革新的な治療法の開発を目的としている。

今回の研究では、局所的な病態に対する遺伝子導入の臨床的な安全性を向上させる方法の開発を目的に、皮膚潰瘍表面に対して、AAVをベクターとする遺伝子導入実験系におけるポリエチレングリコール(PEG)を原料とする高分子キャリアの有効性を検討した。

PEGスライム、皮膚潰瘍表面へ高い遺伝子導入効率を保ち特異性向上

架橋構造・孔径の異なる3種類のPEGキャリアである、PEGハイドロゲル、PEGスポンジ、PEGスライムについて、高分子構造の溶解と、混合させたナノ粒子の放出の関係性を調べた。その結果、PEGハイドロゲル、PEGスポンジは溶解に先んじて放出が開始されるのに対して、動的な架橋構造を持つPEGスライムでは、溶解と並行して放出が起きていた。

マウスの背部に装着したスキンチャンバー内の皮膚潰瘍にPEGハイドロゲル、PEGスポンジ、PEGスライム、より柔らかいPEGソフトスライム、食塩水をキャリアとしてGFPを発現するAAVを投与し、潰瘍表面のGFP陽性細胞数を評価。その結果、PEGスライム、PEGソフトスライムをキャリアとした場合には食塩水で投与した場合と同等の高い遺伝子導入効率が保たれていた。一方、PEGスライムをキャリアとすることによって、主たるターゲットではない深部皮膚組織、およびAAVが非特異的に作用する代表的な遠隔臓器である肝臓における遺伝子導入が有意に減少していた。

PEGスライムの特異性向上は、局所へのAAV作用量増・経時的なAAV不活性化による

続いて、PEGスライムがどのように作用して皮膚潰瘍表面以外での遺伝子導入を減少させているのかを調べるために、各キャリアを用いてGFP標識されたAAVと同程度の大きさのナノ粒子を皮膚潰瘍面に投与。その結果、PEGスライムでは、投与後24時間の時点で皮膚潰瘍表面のナノ粒子数が増加していることがわかった。一方、培養細胞を用いた実験によって常温状態のAAVは時間とともにその遺伝子導入能を失うことが明らかとなった。

これらのことから、PEGスライムによる深部組織および遠隔臓器における遺伝子導入の減少は、皮膚潰瘍表面に対するAAV作用量の増加と、経時的なAAVの不活性化とのバランスによってもたらされていることが示唆された。

局所的な病態対象の遺伝子治療、安全性向上への応用に期待

今回の研究から、適切な分解・放出特性を持つPEG高分子をキャリアとして用いることによって、皮膚潰瘍表面に対する遺伝子導入を高度に局在化させうることがわかった。高い自由度で溶解特性を調整することが可能なテトラPEGから構成される高分子をドラッグデリバリーに用いることによって、局所的な病態を対象とした遺伝子治療に伴う潜在的な合併症発生のリスクを減らしうることが示唆された。今回の知見は、強力な治療効果が期待される反面、ターゲットとして想定していない部位で重篤な合併症をもたらす可能性のある生体内リプログラミングや生体内ゲノム編集など、局所的遺伝子治療の研究開発、主に臨床応用に際する安全性向上に応用されることが期待される、と研究グループは述べている。

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