発症機序として、免疫反応に関する複数の仮説が議論されている
国立国際医療研究センター(NCGM)は5月15日、ナルコレプシーのリスク遺伝子座は、T細胞による自己免疫反応と感染が発症の誘因となることを示唆する結果を発表した。この研究は、NCGM研究所ゲノム医科学プロジェクト(戸山)の徳永勝士プロジェクト長、嶋多美穂子上級研究員、Stanford大学のEmmanuel J.Mignot教授、Hanna M Ollila博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
ナルコレプシーは日中の過度の眠気を主な症状とする代表的な過眠症である。ときに情動脱力発作と呼ばれる、急激な情動の変化に伴って筋緊張が脱落する症状を伴い、日常生活に大きな支障を来す。ナルコレプシーは脳の後部視床下部においてオレキシン産生細胞が脱落することで発症することが知られているが、なぜ神経細胞の脱落が起こるのかはわかっていない。これまでの研究からHLAの特定の型であるHLA-DQB1*06:02との強い関連や、その他の免疫系遺伝子との関連が見出されており、ナルコレプシーの発症機序には免疫系の異常が関与している可能性が示唆されている。
ナルコレプシーに特異的な自己抗体の報告がある一方で、季節性インフルエンザへの罹患や、H1N1インフルエンザワクチンであるPandemrix(R)が発症に関与するとの報告があり、発症機序については、自己免疫的機序や環境要因に起因する免疫反応に関する複数の仮説があり、議論となっていた。なお、Pandemrixは国内では使用されていない。
大規模GWASでHLA領域と強く関連の既知6遺伝子と新規7遺伝子領域を同定
今回研究グループは、日本人を含む複数の集団サンプルを用いたゲノムワイド関連解析を実施した。ナルコレプシーの症例6,073例、対照8万4,856例のサンプル数は、ナルコレプシーのゲノムワイド関連解析において世界最大となる。その結果、これまでの研究で関連が示唆されていたHLA領域について非常に強い関連(p<10-216)を検出すると共に、6つの既知の疾患関連遺伝子(TRA、TRB、CTSH、IFNAR1、ZNF365、TNFSF4)について関連の再現性を確認した。さらに新しく7つの遺伝子領域(CD207、NAB1、IKZF4-ERBB3、CTSC、DENND1B、SIRPG、PRF1)の関連を同定した。
Pandemrix接種後の発症例に絞ってもHLAとTRA遺伝子領域で強い関連
ナルコレプシーのサンプルを、Pandemrix接種後に発症した症例のみに絞った解析でもHLAとTRA遺伝子領域で強い関連が見られ、他のナルコレプシー関連遺伝子領域にも弱いながら関連が検出された。
MSやSLEに関連するSNPのほかT細胞受容体の遺伝子領域SNPと関連
以上のことからインフルエンザワクチン接種後発症例と孤発のナルコレプシーは、本質的に同様の発症機序を有している可能性が示唆された。また関連を示したSNPについて解析を行うと、ナルコレプシーに関連を示すSNPは多発性硬化症や全身性エリテマトーデスといった他の自己免疫疾患においても関連を示すものが多いことがわかった。自己免疫疾患との関連は、フィンランドの研究プロジェクトで収集されたコホートを用いて、ナルコレプシーと他の自己免疫疾患の併発を探索した解析からも支持された。
一方で今回の研究では他の自己免疫疾患ではあまり関連の報告がないT細胞受容体の遺伝子領域のSNPに関連が見られた。それらのSNPがT細胞受容体のレパトアに影響を与えるかを解析したところ、TRAJ*24、TRAJ*28、TRBV*4-2の構成に影響を与えることがわかった。
自己免疫的機序のほか、感染やワクチンなど環境要因による免疫異常の双方が関わる可能性
以上の結果から、これまでさまざまな研究から示唆されていたナルコレプシーの発症機序における自己免疫仮説や環境要因による影響について、遺伝要因の観点からもその双方が発症に関わる可能性が示唆された。
ナルコレプシーは後天的にオレキシン産生細胞が脱落する疾患である。そのため発症機序が解明され、発症に関わる遺伝的リスクが評価できるようになれば、オレキシン産生細胞の脱落を予防することで発症を防ぐことが可能となる可能性がある。「本研究の結果から、ナルコレプシーの発症には自己免疫的機序ならびに環境要因を介した免疫的機序双方が関わっている可能性が示唆された。今後この免疫異常についてさらに研究を重ねることで、将来的な発症予防に貢献する研究成果となる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立国際医療研究センター プレスリリース