通常のがんとは異なり、3胚葉性の組織様に細胞が分化する特殊ながん
静岡大学は5月1日、マウスの精巣性テラトーマの原因遺伝子の1つが、これまで肥満の原因遺伝子として知られていたメラノコルチン4受容体(Mc4r)遺伝子に生じた一塩基置換であることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大創造科学技術大学院バイオサイエンス専攻の徳元俊伸教授ら、同大学理学部の関駿介学部生(当時)、大浦薫学部生(当時)、同大創造科学技術大学院バイオサイエンス専攻の宮嵜岳大博士課程修了生(現:京都大学医学研究科分子遺伝学助教)、浜松医科大学の高林秀次准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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奇形腫テラトーマは、卵巣や精巣などに発症するがんの一種。通常のがんとは異なり、3胚葉性の組織様に細胞が分化する特殊ながんだ。マウスを用いた研究で、原因究明が進められている。マウスでは、細胞移植実験により人為的に移植片からテラトーマを形成させることが可能。移植された細胞の多能性を試験する方法として、iPS細胞の分化多能性を示す実験にも用いられている。
モデルマウス・移植・ゲノム編集によりMc4r遺伝子の一塩基置換を原因として特定
精巣性テラトーマについては、静岡大学と国立遺伝学研究所の野口夫妻により、ほぼ100%の確率でテラトーマを発症する高発系の129マウス系統が発見されている。また、その原因遺伝子領域が18番染色体に存在することが明らかにされている。2005年に、その領域に存在する原因遺伝子が解明され、ゼブラフィッシュで不妊の原因遺伝子として発見されていたDnd1遺伝子の変異であることが明らかにされた。しかし、この変異だけでは生殖細胞欠損となり不妊になるだけでテラトーマは発症しないことがわかっており、テラトーマ発症には別の原因遺伝子が必要であることがわかっている。
そこで、この研究を引き継いだ徳元研究室では、新たな原因遺伝子の解明に向け、移植するとテラトーマを発症する原因遺伝子にターゲットを絞って研究を進めた。その結果、3つの原因遺伝子領域を決定し、実験的精巣性テラトーマ関連領域1,2,3(ett1, ett2, ett3)と命名。ゲノム全体の遺伝子領域のDNA配列決定を行い、ett1領域に存在するMc4r遺伝子内に一塩基置換の変異があることを発見した。続いて、この変異がテラトーマの原因となっているのかを検証。ゲノム編集技術を用いて、精巣性テラトーマを発症しないLT系統のマウスにこの変異を導入した。今回の研究では、ゲノム編集マウスを用いて精巣の移植実験を行い、Mc4r遺伝子の一塩基置換が実験的精巣性テラトーマの原因であることの解明を試みた。
精巣の移植実験により、Mc4r遺伝子の一塩基置換を持つマウス精巣の移植により精巣性テラトーマが発症し、この変異が原因であることを解明した。また、Mc4r遺伝子から作られるMC4Rタンパク質が精巣の生殖細胞に発現していることも突き止めた。MC4Rが生殖細胞の増殖や分化に関わる情報を生殖細胞に伝えていることが明確になったとしている。
MC4Rに作用するリガンド解明へ
今後、研究グループは、MC4Rに作用するリガンド(ペプチドホルモン)の解明やその作用により、どのようにして生殖細胞の分裂や分化が制御されているのかを解明していく。最初に同定されたDnd1遺伝子については、生殖細胞の制御に関する最先端の研究が進められているが、Mc4r遺伝子のはたらきとの関連が今後の研究対象となると推定される。また、Mc4r遺伝子が生殖巣でも発現していることが明らかになったことで、生殖巣におけるがんの原因遺伝子としても注目すべき遺伝子として浮上した、と研究グループは述べている。
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