膵臓がん、ゲムシタビン耐性の克服が課題
近畿大学は5月1日、膵臓がん治療に使用される抗がん剤「ゲムシタビン(一般名:ゲムシタビン塩酸塩)」が効かなくなる主な原因が、特定の酵素の機能低下にあることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部生化学教室の岡田斉主任教授、同大大学院医学研究科博士課程のスーマン・ダッシュ大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Cancer Research」に掲載されている。
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近年、検診や治療法の大幅な改善により、多くの固形がん患者で早期治癒に至るケースが増えている。一方、膵臓がんは、早期発見・治療の難しさなどから、過去数十年間にわたり発生率が増加しており、今後もがん死亡の主な原因になると予想されている。ゲムシタビンは膵臓がんに効果を示す標準的な抗がん剤の一つ。治療経過中、膵臓がん細胞がしばしば抗がん剤耐性を獲得し、治療効果が認められなくなることが臨床上の課題となっている。ゲムシタビンが無効となった膵臓がんは、治療の選択肢が限られている。そのため、抗がん剤が効かなくなる機序の解明、耐性の克服および新たな治療法の開発が求められている。
ゲムシタビン抵抗性、ゲノム編集によるスクリーニングで酵素DCKの機能低下を発見
今回、研究グループは、膵臓がん細胞株のうち、ゲムシタビンによって容易に細胞死が誘導される細胞株を選び、ゲノム編集で約2万のヒト遺伝子を個別に破壊。遺伝子破壊によって、ゲムシタビンが存在していても増殖を続けることができるようになった細胞を利用して、ゲムシタビン抵抗性の原因となる遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、DNAの構成成分であるデオキシシチジンをリン酸化する酵素DCKの機能低下が、ゲムシタビン抵抗性の主原因の一つであることを見出した。
MYC阻害のグルタミンアナログ、DCK欠損のゲムシタビン抵抗性細胞に細胞死誘導
次に、DCK遺伝子を破壊して作製したゲムシタビン抵抗性膵臓がん細胞株と、既報のDCK遺伝子の発現が低い膵臓がん症例の遺伝子発現データを比較解析。DCKの機能低下は、がん遺伝子MYCの機能と、アミノ酸の一つであるグルタミンをエネルギー源として利用する能力を高めることを見出した。また、実際に、これらの機能を抑える働きを有するMYC阻害剤(グルタミンアナログ)が、DCK遺伝子を破壊したゲムシタビン抵抗性細胞に細胞死を誘導できることを明らかにした。
ゲムシタビン抵抗性膵臓がんの新たな治療法開発に期待
今回の研究成果は、膵臓がんの標準的治療薬であるゲムシタビンに抵抗性を生じるメカニズムの解明、およびがん遺伝子MYCやグルタミン代謝が、ゲムシタビン抵抗性膵臓がんに対する有望な治療標的となる可能性を報告するものだ。今後、今回の成果を発展させ、がんの個別化医療に貢献できればと思う、と研究グループは述べている。
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