抗がん剤治療・免疫療法、それぞれの問題点を同時に解決する治療確立へ向けて
九州大学は4月21日、がん特異的に強な炎症を引き起こす細胞医薬の開発に世界で初めて成功し、からだ自身にがんを治療させるという新しいがんの治療法を動物実験にて提唱したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究院の片山佳樹教授、新居輝樹助教、谷戸謙太大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Controlled Release」に掲載されている。
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がんの治療において、抗がん剤の投与は最も行われる手段のひとつとして知られている。これは、体内に投与された抗がん剤の一部ががんに到達することで効果を発揮する。しかし、投与された抗がん剤の多くは体内で代謝、消失するために効果が長続きしない。そのため、抗がん剤を複数回投与することが一般的となっている。複数回投与によって確かに抗がん剤の効果は各段に向上する一方で、副作用のリスクは高まる。このような背景から、抗がん剤に依存することなく生体がもつ潜在能力を最大限に活かす免疫療法が近年注目されている。しかし、がんは免疫からの攻撃を回避できるため、免疫療法で十分な効果を発揮できないという現状がある。
そこで研究グループは、抗がん剤治療と免疫療法のそれぞれの問題点を同時に解決できる新しいがん治療の確立を目指した。
M2型になると炎症性物質を一気に放出するマクロファージ「MacTrigger」を開発
がん全体を急性の炎症組織にするため、研究グループは免疫細胞のひとつであるマクロファージに着目。マクロファージは、がんに積極的に集積する。さらに、がんに集積したマクロファージは通常型(M0型)から抗炎症型(M2型)に分極することが知られている。このマクロファージの性質を活用し、M2型に分極することで初めて、炎症性物質を一気に放出するよう遺伝子を改変したマクロファージ「MacTrigger」を開発した。
担がんマウスにMacTrigger投与、最初の1回で強力な抗がん効果
MacTriggerは、がんに到達するとおよそ4日以内で消滅するようにプログラミングされている。MacTriggerを担がんマウスに注射したところ、8日以降から抗がん効果が確認された。従来の抗がん剤治療に従った場合、MacTriggerが消失する4日おきに投与するが、同研究では最初の1回の投与で強力な抗がん効果が得られたことになる。
上記の現象を詳しく調べるためにがんを取り出してみたところ、炎症の程度を示すさまざまな値が上昇していることが判明。特に、生体からの異物の排除に最も関与するナチュラルキラー(NK)細胞やキラーT細胞などの免疫細胞ががんに侵入していることを確認した。これはMacTriggerによって炎症が起きたがんをからだが排除しようとしている証拠だとしている。
健康な臓器ではM2型にならず炎症を起こさない
強力に炎症を引き起こす「Trigger」となるMacTriggerだが、全身に作用することがあれば問題となる。つまり、がん以外の正常な臓器に到達したとしてもそこで炎症を引き起こさないようコントロールすることが大切だ。そこで、実際にMacTriggerを担がんマウスに注射すると、健康な臓器にも一定数集積するが、臓器の炎症といった副作用は確認されなかった。臓器に集積した MacTriggerを取り出して詳しく調べると、M2型に分極せずM0型で存在し続けていることがわかった。つまり、M2型に分極しない限り炎症を引き起こさない「ロック機能」をMacTriggerに搭載したことで安心して投与することが可能となったとしている。
臨床応用に向け、効果の最大化や安全性の担保など研究を
今回の研究では、がんでのみ強力に炎症を引き起こす細胞医薬(MacTrigger)の開発に成功した。今後は、臨床応用に向け、効果の最大化やさらなる安全性の担保などMacTriggerを最良な細胞医薬へと育成していく予定だ、と研究グループは述べている。
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