線虫をモデル生物に、納豆菌が宿主の寿命に与える影響を解析
大阪公立大学は4月25日、線虫Caenorhabditis elegans(C.elegans)を用いて納豆菌が宿主の寿命に与える影響を検証した結果、納豆菌を与えた線虫の方が、標準餌を与えた線虫よりも寿命が有意に延伸することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生活科学研究科の寺本奈央氏(202年前期博士課程修了)、大阪公立大学大学院生活科学研究科の和田崇之教授、中台(鹿毛)枝里子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Applied Microbiology」にオンライン掲載されている。
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健康長寿社会の実現のために、また、すべての人に健康と福祉を、というSDGs目標の達成に向けて、身近で安価な食品を介した健康寿命延伸の方法論、施策が望まれている。納豆菌は、日本の代表的な発酵食品の1つである納豆の製造に古くから用いられている。納豆菌は枯草菌の一種であり、中でも日本で消費されている納豆の多くは宮城野株を使って作られている。
今回の研究では、線虫をモデル生物として用いて、納豆菌が宿主の寿命に与える影響を調べた。C.elegansは、体長約1mmと小さいながらも動物としての基本的な組織・器官や自然免疫系を有し、寿命が最大でも約3週間と短い。また、動物愛護の観点からも、制約が少ない。
納豆菌を与えた線虫、対照群との比較で寿命が有意に延伸
今回、日本の3大納豆菌の1つである宮城野菌スターター由来の納豆菌株を用いて実験を行った。納豆菌を与えた線虫では、標準餌である非病原性大腸菌OP50を与えた線虫(対照群)と比較して、寿命が有意に延伸することが明らかとなった。
納豆菌による寿命延伸作用、p38 MAPK経路やインスリン/IGF-1様シグナル伝達経路が関与
線虫変異体を用いた解析から、納豆菌による寿命延伸作用には自然免疫や寿命に関わることが知られるp38 MAPK経路やインスリン/IGF-1様シグナル伝達経路が関与することがわかった。
納豆菌を与えた線虫、紫外線・酸化ストレスへの抵抗性向上
次に、寿命との相関が指摘されているストレス耐性についても検討。その結果、紫外線および酸化ストレスに対する抵抗性が向上することがわかった。また、納豆菌摂取により、宿主の生体防御や自然免疫系に関わる遺伝子群の発現が選択的に上昇すること、その遺伝子発現上昇の少なくとも一部はp38 MAPKホモログをコードするpmk-1遺伝子、NRF2転写因子をコードするskn-1遺伝子、およびFOXO転写因子をコードするdaf-16遺伝子に依存することが明らかとなった。p38 MAPK経路やインスリン/IGF-1様シグナル伝達経路は、ヒトを含む哺乳動物にまで保存された生体経路であることから、同様の仕組みがヒトにおいても働く可能性がある。
ヒトへの応用が可能になれば、健康長寿社会実現の一助として期待
今回の研究により、納豆菌による寿命延伸効果とその仕組みの一端が明らかとなった。今後哺乳動物における実験や疫学研究を行うことで、ヒトへの応用が可能になれば健康長寿社会実現の一助となることが期待される、と研究グループは述べている。
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