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トランス脂肪酸、加工食品に多く含有の「人工型」のみが毒性を有する可能性-東北大

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2023年04月25日 AM11:24

マーガリンなどに含まれる「人工型」、循環器疾患等のリスクに関連

東北大学は4月21日、代表的な5種類のトランス脂肪酸の毒性を比較した結果、人工型が制御・プログラムされた細胞死()を強く促進する一方、天然型にはそのような作用がないことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の平田祐介助教、柏原直樹大学院生、佐藤恵美子准教授、松沢厚教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

トランス脂肪酸は、トランス型の炭素−炭素間二重結合を1つ以上含む脂肪酸の総称。そのうち主に油脂加工に伴う食品製造過程で副産物として産生され、マーガリンやショートニングなどの加工食品に多く含まれるエライジン酸などのトランス脂肪酸を人工型トランス脂肪酸と呼ぶ。過去の疫学調査を中心とした知見から、人工型トランス脂肪酸が、循環器系疾患、神経変性疾患などの諸疾患のリスクファクターとなることが示唆され、欧米諸国ではこれまでに、食品中含有量の制限等の規制も導入されてきた。

乳製品や牛肉などに含まれる「天然型」トランス脂肪酸、毒性の有無は未解明

一方、ウシなどの反芻動物の胃の中の微生物によって主に産生され、乳製品や牛肉などに多く含まれるトランスバクセン酸などの天然型トランス脂肪酸については、上記疾患との疫学的関連性は低いものの、実際の毒性の有無については未解明だ。また、トランス脂肪酸の毒性を効果的に軽減・抑制するための薬剤やアプローチについても、明らかでなかった。

マクロファージやミクログリアなどの細胞では、組織損傷などの要因で細胞外に漏出したATP(細胞外ATP)に曝されると、ATPが細胞膜上のP2X7受容体にリガンドとして結合し、その下流でストレス応答性MAPキナーゼ経路であるASK1-p38経路が活性化され、最終的にアポトーシスが起きることが知られている。これらの細胞のアポトーシスは、動脈硬化症や神経変性疾患の発症・増悪に繋がることが知られている。また、松沢教授らによる先行研究の成果より、エライジン酸などのトランス脂肪酸は、細胞外ATP刺激によるASK1活性化を増強し、アポトーシスを強力に促進することが明らかになっている。

食品中に含まれる5種のトランス脂肪酸、毒性の有無や程度を評価

今回の研究では、同グループがこれまでに明らかにしてきたトランス脂肪酸の毒性発現機構を基に、食品中に含まれる5種類の主要なトランス脂肪酸(人工型:エライジン酸、リノエライジン酸、天然型:トランスバクセン酸、ルーメン酸、パルミトエライジン酸)について、毒性の有無や程度を評価した。

人工型のみ、細胞外ATP刺激によるASK1-p38経路活性化増強でアポトーシスを促進

マウスのマクロファージ様細胞株RAW264.7やミクログリア細胞株BV2に、各種脂肪酸を前処置して予め細胞内に取り込ませた上で、細胞外ATPを処置した際の細胞生存率を評価。その結果、人工型2種類のいずれも、処置時間依存的に細胞生存率が顕著に低下した。一方、天然型3種類のいずれも、細胞生存率に有意な影響は認められなかった。このとき、人工型の存在下では、ASK1-p38経路の活性化が増強していた一方で、天然型では同様の増強は認められなかった。これらの結果から、トランス脂肪酸の中でも人工型のみが、細胞外ATP刺激によるASK1-p38経路の活性化を増強し、アポトーシスを促進することがわかった。

EPAやDHAなど高度不飽和脂肪酸、人工型トランス脂肪酸の毒性軽減を示唆

さらに、同研究グループは、EPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸の存在下では、エライジン酸によるアポトーシス促進作用が大きく抑制されることを発見した。詳細な解析から、これらの高度不飽和脂肪酸は、ASK1をターゲットとしており、エライジン酸によるASK1活性化の増強を強力に抑制することを明らかにした。数µM程度の低濃度のDHAでも、強力な毒性軽減作用が認められたことから、これらの高度不飽和脂肪酸の摂取によって、エライジン酸などの人工型トランス脂肪酸による毒性を軽減できることが示唆された。

動脈硬化症・神経変性疾患などトランス脂肪酸関連疾患の治療開発に期待

トランス脂肪酸は、日本人の摂取量が欧米諸国と比較して少ないことや、循環器系疾患を除いた他の疾患とは明確な因果関係が不明であることから、日本では、食品中含有量や摂取量の規制は行われてこなかった。そのため、人工型と天然型のトランス脂肪酸の食品中含有量を区別せず、ひとまとめにして測定・把握してきた実情がある。今回の研究成果より、人工型のみが毒性を有し、天然型が毒性を持たないことが示唆されたことから、人工型トランス脂肪酸の食品中含有量や摂取量について引き続き注視していく必要がある。一方、乳製品や牛肉に含まれる天然型のトランス脂肪酸については、過度に注意する必要はないものと考えられる。今後は、各種脂肪酸の実際の摂取量や体内の存在量に基づく有害影響の有無、各種脂肪酸の実際の関連病態への影響、上記の主要な5種類以外のトランス脂肪酸種の毒性の有無などについて、調査を継続する必要があるとしている。

また、EPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸が、トランス脂肪酸の毒性を強力に軽減できたことから、普段からこれらの高度不飽和脂肪酸を摂取することで、トランス脂肪酸摂取に伴う関連疾患の発症リスクを軽減できることが想定される。同研究グループでは、細胞外ATP以外のストレス条件下でも、人工型トランス脂肪酸がアポトーシスを促進するという毒性作用を見出しており、今後の研究により、これらの他の毒性作用についても、高度不飽和脂肪酸が軽減可能か否か明らかになることで、トランス脂肪酸摂取に伴う疾患リスクの予防・軽減策の提案につながることが期待される、と研究グループは述べている。

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