リチウム濃度の高い水道水を摂取した母親の子どもは自閉症リスクが高い
リチウム含有量が多い地域の水道水を摂取していた妊婦では、含有量が少ない地域の水道水を摂取していた妊婦と比べて、子どもが自閉症(ASD)になる確率が高いとする研究結果が報告された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)David Geffen School of Medicine神経学教授のBeate Ritz氏らが実施したこの研究は、「JAMA Pediatrics」に4月3日掲載された。
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リチウムはアルカリ金属元素に分類される元素で、地殻内部に広範に分布している。リチウムには精神安定作用があることから、うつ病や双極性障害の治療に用いられることもある。しかし、妊娠中の女性に対する使用については、流産や子どもに先天性の異常が生じるリスクが否定できないことから、統一見解が得られていない。その一方で、飲料水中からのリチウムの摂取が成人での精神神経疾患発症との関連を示した研究報告もある。
Ritz氏らは今回、2000年から2013年の間にデンマークで出生したASD児8,842人(男児79.3%)と、生年と性別を一致させた対照4万3,864人(男児79.2%)を対象に、妊娠中の母親の飲料水を通したリチウム曝露が子どものASDと関連するのか否かを検討した。妊娠時に母親が住んでいた場所の住所をジオコード化したものを、デンマークの151カ所の水道施設のリチウム測定値を基に推定した飲料水中のリチウム濃度(範囲0.6~30.7μg/L)とリンクさせた。
母親の飲料水を通じたリチウム曝露量の四分位数で対象者を4群に分類して比較すると、子どものASD発症の調整オッズ比は、曝露量の最も少なかった群(7.4μg/L未満)を1とすると、2番目に多かった群(7.4〜12.7μg/L)で1.26(95%信頼区間1.17〜1.36)、3番目に多かった群(12.7〜16.8μg/L)で1.24(同1.14〜1.34)、最も多かった群(16.8μg/L超)で1.46(同1.35〜1.59)であることが明らかになった。
Ritz氏は、「デンマークでは、出産前の母親の飲料水を通じたリチウム曝露が、子どものASDリスクの増加と関連していることが明らかになった。この結果は、飲料水を通したリチウム曝露が胎児の神経系の発達に悪影響を及ぼしている(神経毒性)可能性を示唆しており、さらなる調査が必要だ」と述べている。同氏によると、脳の発達や自閉症にはWntシグナルと呼ばれる生物学的経路が関与しており、この経路がリチウムの影響を受けることが動物モデルで示されているという。
リチウムは、土壌や岩石から飲料水の中へと溶出する。しかし、将来的には、不適切に処理されたリチウム電池の廃棄物が原因で、飲料水中のリチウム濃度が上昇する可能性がある。それなら、水道水の代わりにペットボトル入りの飲料水を飲めば良いと考える人もいるだろうが、「それは、この問題の解決にはならない」とRitz氏は言う。同氏によると、「ペットボトル入りの飲料水の多くは水質検査を行っていない。中には、通常の飲料用の水源からそのまま容器に詰めたものもある」という。
米レインボー・ベビー&チルドレンズ病院レインボー自閉症センターのディレクターであるMax Wiznitzer氏は、この結果を慎重に捉えるよう注意を促す。同氏は、「精神疾患のためにリチウムを服用している妊婦を調査した研究では、自閉症との関連は示されていない」と指摘する。
Wiznitzer氏は、「興味深い関連性ではあるが、因果関係が証明されているわけではない。水道水に含まれる少量のリチウムにADSを引き起こすような生物学的に妥当なメカニズムがあるのかどうかを確認する必要がある。ただし、双極性障害の女性に対するリチウムの薬理学的投与によってASDリスクが増加することは、現状では報告されていない」と話している。
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