睡眠不足がヒトの腸内細菌叢組成に影響を及ぼすメカニズムは?
北海道大学は4月12日、腸管自然免疫の作用因子となる抗菌ペプチドの「αディフェンシン」が睡眠時間の短い人ほど低いことを示し、そのことが睡眠不足における腸内細菌叢の破綻と免疫系の機能に重要な菌代謝産物である酢酸や酪酸など、短鎖脂肪酸の低下に関与することを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院先端生命科学研究院の中村公則教授、同・医学研究院の玉腰暁子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gut Microbes」にオンライン掲載されている。
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近年、睡眠不足が、さまざまな疾患との関係が知られる腸内細菌叢の破綻(dysbiosis)を誘導することがわかってきており、睡眠不足によって生じるdysbiosisが疾患リスクの亢進に関与することが示されていた。しかし、睡眠不足がヒトの腸内細菌叢の組成に影響を及ぼすメカニズムはこれまで不明だった。
健常者35人の便中αディフェンシン量を解析、睡眠時間と腸内細菌叢の関係を評価
研究グループは今回、北海道寿都町に居住する中高年者を対象とし、地域コホート研究(健康に暮らせる町づくりを目的とした生活習慣及び健康状態の調査:DOSANCO健康調査)に参加した、消化器病の治療を受けていない35人の健常者の睡眠記録と提供を受けた便を用いて、睡眠とαディフェンシン(HD5)分泌量、腸内細菌叢およびその代謝物の関連を詳細に解析した。
便中のαディフェンシン量をHD5酵素抗体法で解析し、同時に腸内細菌叢の組成解析、さらには腸内細菌代謝物である短鎖脂肪酸を定量することにより、睡眠時間、αディフェンシンと腸内細菌叢の関係を初めて評価した。
短眠なほどαディフェンシン量「低」、腸内細菌叢破綻や短鎖脂肪酸低下にも相関
その結果、睡眠不足と腸におけるαディフェンシン分泌量低下の関係が示され、短眠が腸内細菌叢の組成と機能的な異常に関与することが判明。脳腸相関における「睡眠-αディフェンシン-腸内細菌叢」という新たな視点が提示された。
これらのことから、睡眠不足に伴う腸内細菌叢の破綻メカニズムとして、αディフェンシン分泌量の低下が関与していることが強く示唆された。これは、αディフェンシンとヒトの睡眠障害の関係を初めて解明した画期的な成果と言える。
αディフェンシン分泌誘導をターゲットとした睡眠障害予防法や治療法の開発に期待
これまで睡眠不足は腸内細菌叢の破綻を介して、精神的および身体的不調を起こしてさまざまな疾患リスクの上昇に関与することは示唆されていたが、睡眠不足が実際にどのようなメカニズムで腸内細菌叢の異常を誘導するのかは明らかではなかった。同研究により、睡眠不足に伴うαディフェンシン低下が、疾患リスク亢進との関係が知られている腸内細菌叢の組成変化に関与する可能性が示され、睡眠障害における自然免疫と腸内細菌叢を介した脳腸相関の影響が初めて明らかにされた。
今回の研究成果は、睡眠不足に伴う疾患リスク上昇に新しい洞察を与えたと言える。「睡眠時間が短いほど小腸のパネト細胞からのαディフェンシン分泌量が低い傾向のあることが示された。これまで不明だった睡眠不足に伴う腸内細菌叢の破綻メカニズムとしてαディフェンシンの重要性を明らかにしたことから、今後、αディフェンシンの分泌誘導をターゲットとした睡眠障害に対する予防法や新規治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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