従来の予後予測モデル、良好な治療効果が期待できる治療法の選択は難しかった
宮崎大学は4月7日、難治性血液がんのひとつである成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)のゲノム情報と臨床情報を統合した新たな予後予測モデルの開発に成功したと発表した。この研究は、同大医学部内科学講座血液・糖尿病・内分泌内科学分野の下田和哉教授、亀田拓郎助教、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所分子腫瘍学分野の片岡圭亮分野長、公益財団法人慈愛会今村総合病院の宇都宮與名誉院長兼臨床研究センター長、独立行政法人国立病院機構熊本医療センターの日高道弘副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Haematologica」に掲載されている。
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ATLはヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染を原因とする難治性血液がんで、日本、アフリカ、カリブ海沿岸諸国などHTLV-1の流行地域で特に多く見られる。がん化したHTLV-1感染リンパ球が増殖し、リンパ節腫大などさまざまな症状を引き起こす。これまでの研究により、ATLの発症には50種を超える遺伝子異常が関与していることが明らかになっている。ATLの治療は、主に多剤併用化学療法、抗CCR4抗体療法、および造血幹細胞移植療法によって行われている。しかし、造血幹細胞移植療法は治療の侵襲が高く、合併症や移植関連死亡が問題となっている。また、ATLの病勢の評価には、年齢やステージなど臨床情報に基づく予後予測モデル(ATL-prognostic index:ATL-PI)が広く用いられてきた。しかし、どのような症例が多剤併用化学療法のみで良好な治療効果が期待できるかの予測は難しく、ATL-PIを治療法選択に活用することが困難であったことから、治療選択に資する新たな予後予測モデルの開発が望まれていた。
新たなモデル、従来の予後良好群の4割でさらに予後の良い群を精密に同定可能
研究グループは、造血幹細胞移植療法の対象となる70歳未満のATL計183例を対象に、ATLで高頻度に認められる遺伝子変異情報と臨床情報であるATL-PIのステータスを統合した機械学習による回帰分析を行い、TP53やIRF4を含む7つの遺伝子の変異情報とATL-PIを統合した新たな予後予測モデル(m7-ATLPI)の作成と検証に成功した。これにより、従来の予後良好群(ATL-PIのLow risk群)から、そのうちの約4割に相当するさらに予後の良い一群(m7-ATLPIのLow risk群)を精密に同定することが可能となった。m7-ATLPIでLow riskと判定される症例では、合併症や移植関連死亡が問題となる造血幹細胞移植療法を回避し、標準的な多剤併用化学療法を選択することで、長期生存が得られることが期待できる。一方、m7-ATLPIでIntermediate/High riskと判定される症例では、造血幹細胞移植療法などの代替療法が有効である可能性がある。
個別化医療の推進、予後の改善、QOL向上につながることが期待
「本研究の成果は、ATL患者の個別化医療の推進、予後の改善、およびQOL向上につながると期待される。また、今後、本研究の成果が治療最適化のみならず、新たな治療法開発の基盤となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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