半数以上が病因遺伝子不明の希少疾患、大規模ゲノム解析に効率的で強力な分析手法が必要
東京大学医科学研究所は4月7日、表現型データと膨大な遺伝情報(全ゲノム配列解析データ)を基にした統計学的方法と計算論的アプローチの解析と疾患関連の検証を行い、希少3疾患(原発性リンパ浮腫、胸部大動脈疾患、先天性聴覚障害)の遺伝的病因を明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の森崎隆幸特任研究員、米国マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のErnest Turro准教授、Daniel Greene助教、英国ブリストル大学のAndrew Mumford教授、ベルギールーベン大学のKathleen Freson教授、米国メリーランド大学のZubair M. Ahmed教授、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのGraeme M. Birdsey講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」にオンライン掲載されている。
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希少疾患の半数以上は遺伝的病因がいまだ不明であり、大規模な患者集団のゲノム配列と表現型の情報は、未知の遺伝的病因を明らかにするために必要である。しかし、その解明には効率的で強力な分析手法が必要だった。今回、表現型情報と膨大な遺伝情報を利用して希少疾患の病因を解明する道筋を示した。
7万人以上の希少疾患患者全ゲノムから、遺伝子型と表現型を含むデータベース構築
研究グループは、英国10万人ゲノムプロジェクトの全ゲノム配列解析が行われた希少疾患患者7万7,539人のデータから、まれなバリアントの遺伝子型と表現型を含むデータベース「Rareservoir」を構築し、遺伝的関連のベイズ推定法であるBeviMedを用いて、遺伝子と、医師が患者参加者を割り付けた269のまれな疾患分類との関連を推定した。
原発性リンパ浮腫、ロイス・ディーツ症候群、劣性の先天性聴覚障害の遺伝的病因を明らかに
その結果、既知の241の関連と、これまで知られていなかった19の関連を見出した。さらに、他のコホートで家系探索を行い、バイオインフォマティクス的手法と実験的手法を用いて、疾患とERG、PMEPA1、GPR156との関連を検証し、原発性リンパ浮腫、ロイス・ディーツ症候群、劣性の先天性聴覚障害の3つの疾患原因としての根拠を得た。
1)ETS(Erythroblast Transformation Specific)ファミリー転写因子をコードするERG遺伝子の機能喪失型バリアントは原発性リンパ浮腫を引き起こす。2)トランスフォーミング増殖因子(TGF)β調節因子をコードするPMEPA1遺伝子の最終エキソン内の欠失型バリアントはロイス・ディーツ症候群の原因となる。3)GPR156遺伝子の機能喪失型バリアントは劣性の先天性聴覚障害を生じる。
今回の研究により、データベースRareservoirは、数万人の参加者で構成された、まれな疾患コホートの研究に必要な遺伝的データと表現型データを統合する、軽量で柔軟なポータブルシステムとなることがわかった。「今回の研究は今後、対象疾患のみならず他の希少疾患の治療法開発への道筋となることを示した」と、研究グループは述べている。
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