AIによる手術中の医師の感情推定実験を実施
横浜国立大学は3月31日、独自の感情推定モデルを用いて、手術中の医師の感情を心電センサとAIを用いて可視化するシステムの開発を行い、センサを装着した医師の手術中の感情を見える化可能なことを確認したと発表した。この研究は、同大大学院環境情報研究院の島圭介准教授ら、株式会社ミルウスらの研究グループによるもの。
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感情は、人々のパフォーマンスを左右する重要な指標だ。例えば、スポーツ選手の成果は感情に大きく左右すると言われている。とりわけ、命を預かる手術中の医師の感情を可視化することは重要であり、経験豊富な医師が術中の各ステージで、どのように感情をコントロールしているかは、研修医の教育などに非常に有効となる。今回の研究では、北海道のノーステック財団「医療機関ニーズ型開発補助事業」として、AIによる手術中の医師の感情推定実験を行った。
熟練医師の感情コントロール、客観的なデータとして研修医に伝えることが可能になると期待
今回実験に用いたシステムは、胸に貼り付ける心電センサ波形を入力するWindowsパソコン(以下、PC)のアプリとして動作する。PC画面で、医師や専門家が手術中に記録した術野の動画と、その時点の喜怒哀楽といった感情の動きを感情円環図上に表示する。また、感情の起伏、覚醒度、快適度等を時系列で表示。カーソルを移動させることにより、希望のタイミングの感情を1分単位で表示できる。これにより、経験豊富な医師でも緊張する手術のステージを把握できる。
同システムを用い、より多くの医師のデータを集めることにより、これまで主観の共有で積み重ねられていたノウハウに加え、客観的なデータに基づく知識の共有が可能になる。これにより、熟練医師の感情コントロールを客観的なデータとして経験の少ない研修医に伝えることが可能になると期待される。
実験では例えば、手術開始時点では比較的落ち着いた黄色が主体だが、後半の術野が脳内に至る佳境段階では緊張を表すオレンジ色が増えてくることが確認された。また、感情の強度も強弱を繰り返し、緊張時では、その間隔が短くなっていたという。今後、心理学の専門家と協力し、データの積み重ねと共に、心理的側面からの分析を進めるとしている。
感情推定技術、認知症の早期発見など広範囲の応用を想定
これまで主観に頼っていたアンケートによる商品・サービス市場調査、ヘッドマウントディスプレイを装着した人に対応するアバターの感情表現、さらには認知症の早期発見といった医療応用など、感情推定技術には非常に広範囲の応用が想定されるという。他方、感情は主観であり、利用シーンや個性によって異なる部分もある。応用分野ごとに、多様な専門家との共同研究を推進し、センシング、AIアルゴリズム等の改良・最適化を図ることを検討していく、と研究グループは述べている。
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