体内配置が反映された3次元実例モデルで刺激伝導系ペーシングシミュレーションを実施
東邦大学は3月29日、体内配置が反映された3次元実例モデルを使用して心臓刺激伝導系ペーシングの画像シミュレーションを世界で初めて実施、それにより、従来使用されてきた2次元簡易モデルに基づいた理解を訂正するとともに、刺激伝導系ペーシングにおける実際のペーシング部位と新しい概念を明示したと発表した。この研究は、同大医学部解剖学講座の川島友和准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal」オンライン速報版に掲載されている。
複雑化した診断・治療、新規医療技術評価のためには、より正確な体内配置だけでなく、必要に応じた任意の視野、相対的サイズや奥行きなども反映された「新しい解剖地図」が必要となる。完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈患者に対する従来ペーシング法「右室心尖部ペーシング」や「両室ペーシング」などでは、実際の刺激伝導系を介した生理的興奮伝達と著しく異なることから長期成績が良くなかった。そこで、生体での興奮伝達に関与する刺激伝導系要素を直接的に捕捉する、より生体現象に近い生理的ペーシング技術として「ヒス束ペーシング」や「左脚ペーシング」の、新しい刺激伝導系ペーシングが実施されるようになった。しかし、現在のいかなる医療画像解析でも刺激伝導系の形態は認識できないため、およその伝導系の位置指標を参考に、心内電位に基づき透視下でペーシングリードの埋め込みが行われている。
この生理機能や臨床的重要性を有する刺激伝導系の詳細な形態学的情報は十分に明らかにされているわけではない。特に、研究技術の問題点から摘出心や組織解析用の小さな局所標本を解析試料としてきたため、刺激伝導系の正確な体内配置は不明なままであり、100年以上にわたって簡易的な模式図を代替的に利用し、多くの手技や理論構築が行われてきた。そのため、選択的ヒス束ペーシングではヒス束のみが刺激される、左脚ペーシングではペーシングリードが必ず右脚と交差関係にあると誤解され、偶発的に左脚ペーシングによって右脚障害が起こり得ると考えられてきた。つまり、この新しい治療法のためのさらなる向上のためには、新しい解剖地図で新しい手技を検証する必要があった。そこで研究グループは今回、開発した体内配置が反映された3次元実例モデルを利用して、刺激伝導系ペーシングのシミュレーションを行った。
体内3次元配置可視化技術、循環器学の生理現象や疾病予後理解にも役立つ可能性
その結果、「ヒス束ペーシングではヒス束のみならず、かなり多くの例で左脚近部も同時に捕捉されている可能性が高い」こと、「通常の左脚ペーシングが行われるような位置では、右脚と左脚近位部の体内配置は位置も方向も明らかに異なり、両者が同一平面状にはなく、左脚ペーシングによって右脚損傷を起こすことはない」ことが明らかとなった。ヒス束捕捉位置から大きく下方へ移動させた場合は右脚損傷が起こり得る。この実際のペーシング位置に基づき、刺激伝導系ペーシングの名称変更が必要だとしている。
以上より、体内3次元配置可視化技術は、不整脈治療のみならず循環器学のさまざまな生理現象や、疾病予後の理解にも役立つものと考えられた。また、人体のあらゆる領域に関しても、新しい解剖学地図再作成の必要性と重要性が示された。
「生理的ペーシング」のさらなる技術開発に期待
今回行った次元配置を可視化する技術を用いたペーシングのシミュレーションにより、実際のペーシング位置が異なることや訂正が必要なことが明らかにされた。今後の生理的ペーシングのさらなる技術開発が期待されると、研究グループは述べている。
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・東邦大学 プレスリリース