国際的な「14日ルール」は今後どうあるべきか?
山梨大学は3月27日、一般市民と科学者に対して、ヒト胚を14日以上培養する研究について意識調査を行った結果を発表した。この研究は、同大大学院の由井秀樹特任助教、総合研究部医学域社会医学講座の山縣然太朗教授、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター公共政策研究分野の武藤香織教授、東京都健康長寿医療センターの八代嘉美専門部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
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ヒト胚を用いる研究を通して、ヒトの発生過程に関する知見や、不妊治療の向上につながる知識が得ることができ、発生過程の理解の向上は、再生医療の進展につながることが期待されている。もしヒト胚を長期間、体外で培養することができれば、こうした知識をより多く得られる。
ヒト胚を研究に使う際は、「14日以内の培養に留めること」が各国のルールで求められてきた。これは「14日ルール」と呼ばれ、日本でも、曖昧な部分はあるが、14日ルールを採用しているといえる。14日ルールが広まった1980年代当時、14日を超える期間、ヒト胚を培養することは技術的に不可能だった。しかし近年、14日を超えてヒト胚を培養することが技術的に可能になりつつあることが示されている。
こうした動向を受け、著名な国際学会である国際幹細胞学会(International Society for Stem Cell Research)が2021年に新たなガイドラインを発表し、ヒト胚の14日を超える期間の培養の容認に含みを持たせた。同学会の従来のガイドラインでは明確に禁止されていたが、2021年のガイドラインでは禁止カテゴリーから除外された。同ガイドラインは日本のメディアでも取り上げられ、14日ルールの取り扱いをめぐる議論が各国で徐々に始められつつある。
一般市民3,000人、科学者535人を対象に調査
研究グループは、日本の一般市民3,000人と、幹細胞や胚関連の研究を行っている科学者(日本再生医療学会員および、日本医療研究開発機構(AMED)からの支援を受けて関連する研究を行っている科学者)535人に対してwebアンケートを実施し、14日を超える期間ヒト胚を培養する研究について、日本のルールでどう取り扱うべきか意見を訊ねた。一般市民に対する調査は2022年1月、科学者に対する調査は同年3月に行った。
「容認すべき」科学者46.2%、「判断ができない」一般市民42.9%
その結果、ヒト胚の14日を超える期間の培養を日本のルールで「容認すべき」と回答したのは、一般市民37.9%、科学者46.2%だった。一方、「禁止すべき」と回答したのは一般市民19.2%、科学者24.5%、「判断ができない」と回答したのは一般市民42.9%、科学者29.3%だった。
科学者は一般市民に比べて「容認」と回答した割合が高かったが、その一方で、「禁止」と答えた割合も高かった。一般市民では、設問内容の理解度が高いほど、「判断ができない」と比較し、日本のルールで「容認すべき」あるいは「禁止すべき」という回答が増える傾向にあった。理解度が高くとも価値判断ができない、という場合はあるが、この結果から示唆されるのは、理解度を高めれば、価値判断ができる場合が多くなるということである。
一般への情報提供方法なども含めたさらなる調査が必要
今後、ヒト胚の14日を超える期間の培養について、日本のルールでの取り扱いが議論されることが予想される。ヒト胚を使う研究のルールのあり方を決めるにあたり、国民的な議論が求められている。一般市民を置き去りにせず、議論の水準を高めるためにも、情報発信が必要であることが研究から示唆された。一方、設問の説明方法を変えれば、回答の傾向も変化した可能性があるため、人々の意見をより正確に把握するためには、さらなる調査が必要だ。その際には、14日を超える期間の培養が許容されるとしたら、次の培養可能期間の線引きをどこにするのか、また、質の高い国民的議論のためにはどのような情報提供が必要なのか、などの点も合わせて検討することが重要だ。「今回の研究が、研究用にヒト胚の提供を依頼される可能性がある、体外受精・顕微授精の経験者を含めた、国民的な議論のきっかけとなることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース